神瀬 ヌーリヒョン Nuurihiyon


遠い遠い昔の事 神瀬に「ヌウリヒョン」と言う妖怪が いたと言います。神瀬のヌウリヒョンは 海坊主のように 頭は禿で、眼鼻のないお爺さんです。袈裟Kesaを 着ていますが、僧侶ではありません。年が暮れる 多忙な時を 狙って  勝手に とある案田の与左衛門の家に 上がり込み、かってに 茶を沸かし 飲んだそうです。それは 年末で 正月飾りや 餅搗きMotitukiや 大掃除等 忙しい時だったので、家の居間には 他に誰もいず、禿げ頭で 目鼻が有るのかないのか解ら ない  薄い着物を 羽織った老人だけが  一人 ポツンと座り お茶を飲んでいました。家族の者は  誰か親戚の者でも来て  忙しさに遠慮して 挨拶も省き、かってに お茶を入れて 飲んでいる位にしか 思いませんでした。近所の人が 通りかかっても、家族の誰かが 疲れて 休んでいる位にしか 思わなかったのです。与左衛門が 仕事を終え「誰じゃ お前ぁ」と 声を掛けても、振り向きもしません。前に廻り 顔をよく見ると 頭は 艶々と光り、鯰の様な平べったい頭で 目はあるかないか解らない程小さく、鼻は 穴が空いているだけだったのです。吃驚Bikkuriし、恐怖を感じましたが、襲ってくる風情もありません。妖怪だと 気付きました。悪行をなす妖怪か 福を齎す妖怪か 解りませんが、兎も角Tomokaku気持ち悪いのと 貧乏神を思わせる風体Huuteiなので 追い払う事にしました。竹箒Take-Boukiを 持ち出し 掃き出そうとしても、体は クニョリとしていて 手応えTe-gotaeが 有りません。ならばと 鍬Kuwaで 打ち掛かかると、体は クニュと凹み 怪我Kegaもしません。獣なら 火を近付ければ 逃げるので、火を押し付けようとしました。体に火が 近づくと、ジュウと音がして 火が消えてしまいます。何をしても お構いなく、悠然としていて からかうように お茶を楽しんでいるのです。

攻撃しても 反撃して 反撃しないと解ったので、追い払うのを 諦め「お前は 何者じゃ  どこから来た」と 妖怪の身分を尋ねました。妖怪は 嬉しそうな顔になり「よう聞いておくれじゃ  わしはヌウリヒョンと言う水母(Kurageじゃ  海神社が 勧請Kanjyouされた折り 春日大明神の荷物の神水Sinsuiの中で 昼寝していたら 牛窓から本宮山に 知らない内に連れて来られたんじゃ   蓮池でひっそり暮らしていたのじゃが、寂しゅうて叶わんけぇ 化気神社が本宮山から下りる時、神輿Mikosiに隠れ神瀬の山の麓に降りて 移り住んだんじゃ  神瀬は 滅多に人に合えん  1人で暮らしているけぇ 暇を持て余しておる  わしの茶の相手を してくれりゃぁ 豊作ぅ保証しよう  逆らうんなら 容赦をせん  悪事の限りを 尽くすぞ」と 脅すのです。与左衛門は 退治しようにも 打つ手がないので 仕方なく、お茶の相手をしました。妖怪は「又 来らぁ」と 言って神瀬に 帰って行ったのです。その年から 与左衛門の家は 旱魃(Knbtuの時も 冷害の時も 不作になる事はなくなり、年末や  農繁期の時には 不思議な老人が 居間で お茶を嗜むtasinamuようになったのです。与左衛門は 化 気神社の伊奢沙別命Isasawake-no-mikotoのご利益なのか ヌーリヒョンの妖術のせいか解りませんでしたが 豊作に感謝し、忙しい時間を 差送りSasi-okuri ヌーリヒョンの相手を したそうです。「三谷野呂の百怪談」    本宮山の海神社:北緯34度54分13秒東経133度50分44秒    化気神社:北緯34度45分19秒東経133度49分22秒    蓮池:現在は、涸れて浅い窪みになっているそうです    春日大社:北緯34度40分52秒東経135度50分53秒   

ヌウリヒョン:全国的には「ぬらりひょん」と 言う妖怪ですが、妖怪の大将とする説は むしろ過ちで、たいした悪さをしません。ぬらりとは 滑々するの意で、ひょんは 変なの意味です。ぬらりくらりとしたひょんな 掴み所のない妖怪と 言う意味で 名付けられました。岡山では ぬらりひょんは 海坊主で、瀬戸内海に住む人頭大の球状妖怪です。捕まえようとすると、浮いたり沈んだりして 人をからかうそうです。カツオノエボシや タコクラゲのような大型クラゲの化身と されます。水木しげるさんの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」では 妖怪の大将で、鬼太郎の敵役Kataki-yakuの悪者ですが、吉備中央町のぬうりひょんは、寂しがり屋の 恍けた妖怪です。https://ja.wikipedia.org/wiki/ぬらりひょん」「三谷野呂の村人より口伝」 平成23年(2011年)11月17日