広面 大滝・蟹地獄 Oo-taki/Kano-Digoku in Hiromo

高梁御津線(県道31号線)の吉備中央町と 岡山市の境に 即 ち宇甘渓自然公園の720m程南に 加茂街道改修記念の碑が立つ傍に 沢が有ります。200m程 沢沿いに小滝の続きを登ると 北緯34度50分32秒 東経133度49分49秒に 高さ約7mの曲流した滝が 見つかります。伝説によれば  蟹地獄は 高い山の沢でも登り また湿り気があれば 陸にも生息する 沢蟹でさえ 登れない急峻な小滝が 沢山あり、その奥に大きな滝が あるのでその名が付けられた 地名だそうです。「村人口伝」


広面 蟹地獄 Hell for crab

広面の山奥に とても急峻な 小川が有りました。あまりに 急なので 魚も蟹も 住めませんでした。昔、小川の下流に 蟹仲間で 評判の美しく 心優しい娘蟹が いました。若者蟹達は 娘蟹をお嫁にしたくて 毎日 入れ替わり 立ち代わり 娘蟹に 言い寄るのです。娘蟹は 見栄えが良く 口達者な男蟹より、愚直でも 誠意ある性格の男蟹が 好きだったのです。好きな 青年蟹が いたので、言い寄る 男蟹達の申し込みを 断るのですが、肝心の好意を寄せている青年蟹は 訪ねて来ないのです。仕方なく 娘蟹は 寄せ来る若者達に「小川の上の大滝の上に生えている水桃の実を 採って来た者のお嫁になります」と 無理難題を 言ったのです。蛮勇を振るって 若者達は 沢を登って行きましたが、途中の小滝を 越える事も 出来ず 滑り落ち、退き返して 来ました。

それを見ていた人間も 蟹仲間も その危険な場所を蟹地獄と呼びました。あの愚直な 青年蟹は 娘蟹が 自分に思いを寄せている事は 解っていましたが「娘の望みの水桃の実を 採って来て 求婚しよう そうすれば 恋敵の恨みを  買わずに済む」と 思い、地味に コツコツと沢登りや 岩登りの鍛錬を 計画的に 続けした。そして、勇気を 出して 蟹地獄に 向かいました。鍛錬の甲斐あって 途中の小滝を 全て乗り越え 大滝に 挑みました。何度も 何度も 滑り落ちましたが、何とか 登り上流に 水桃の実を 探しに行きました。見た事が 無い植物ですから、どんな実であるかも 知りません。桃の形をした実や 桃の香りのする実を 探しても 探しても 水桃らしい実は 見つかりません。青年蟹は すっかり気を落とし引き返す事にしました。それでも、下流には 生えていない美味しそうな 仙人の食べ物に 見える 水藻を 採取しました。大滝を 用心しながら 下って行きましたが、無念な 結果を 嘆き 涙で 曇った目は 足の踏み場を 誤らせました。滝の中間辺りから 転落し、甲羅Kouraを 強く打って 背中にX状 の傷が 付き 右の挟みが折れました。痛い体に 鞭打ち、蟹の村に 辿り着いた時には 瀕死)の重傷になっていました。村中は 大騒ぎになりました。娘蟹が 駆け付け 青年蟹を 家に連れて来て、水桃という実は 口から出まかせ の出鱈目(だった事を謝り、青年蟹の誠意に 感謝し 心を 込めて手当をしました。

食欲が無く 普通の食べ物を 受け付けませんでしたが、青年蟹が 持ち帰った水藻だけは 食べたのです。すると 脱皮が 始まり、割れた甲羅と 右手は みるみる再生し 治って行きました。元気になると 2匹は結婚し、多くの子供を 育てました。不思議な 力のある水藻を増やし 食べ物にしました。それで 2匹の蟹の子孫の甲羅には X印の模様が有り、手足が捥げ落ちても再生するのです。「三谷野呂の百怪談」    平成24年(.2012年)12月28日