上田東貢 狼の恩返し The Grateful wolf


 昔、昔。貢村に、動物好きの老婆が 住んでおりました。卵を産まなくなっていましたが たった一羽の年老いた鶏を 大事に大事に 飼っていました。ある日、おろちが 現れ大切な鶏を 絞め殺してしまいました。お墓を造って葬ろうと思いましたが、通夜をしていると 心の中に神が現れ「大切な命を無駄にしてはならぬ 動物好きも程々にせい お前が生きるために 鶏の肉を 活かしなさい」と告げたのです。そこで、震える手で 神のお告げに従がい 鶏を さばき 鶏肉弁当を 作りました。それを 箱に詰め 裏山に 山草取りに 出かけました。収穫が 得られないので 知らぬ間に 深い山に入り込んでいました。

すると、悲しげに鳴く 狼のうめき声が 聞こえて来ました。恐る恐る近付いて見ると、一匹の狼が 大きな猪の足の骨を 食べようとして 誤って口に挟まり 取れなくなっていたのです。一匹狼の多くは 神経質で 攻撃的な 雄狼です。老婆は その事を良く知っていたので 逃げ戻ろうとしましたが、狼の助けを 求める哀れな眼を見ると、ソロソロと近寄りました。狼は 初め 警戒の姿勢を取りましたが、老婆と目が合うと 老婆の意思が 解ったのか 穏やかな眼に変わり 助けを 受け入れました。老婆は 歯が食い込んでいる骨を しわだらけの か細い手で 苦労して 外してやりました。狼は 長い間飲み食いできずにいたので 弱り切っていました。老婆は お弁当を 狼の前に置き、弁当箱の蓋に 水筒の水を注いでやると、弱々しいながら 飲み食いし始めたので 安心して家に戻りました。村では 重い病が はやっていました。村の老人達は この病気に 罹り次々に死んで ゆきました。老婆も 体力が無いので いずれ病気に罹って死ぬだろうと 覚悟をし、身の回りの 整理をしていました。数日後 夢の中に 神らしきものが 現れ 何やら感謝しているようでした。その早朝 庭で物音がし  何者かが 山に帰って行った様子です。何事かと思って 玄関を開けて見ると、立派な山鳥が 置いて有りました。老婆は 夢に出た者が オカミの神で 狼はオカミの神の使わしめだったと 信じました。狼の恩返の贈り物を 感謝して食べました。すると若返り 体力も付き、流行病に罹りましたが、大した症状に なりませんでした。神に 感謝し木野山神社に お礼の参詣をしたそうです。「貢の村人より口伝」

高梁市・木野山神社:高梁市今津の木野山の頂上 北緯34度49分32秒東経133度37分3秒に建ちます  大山祇命 豊玉彦命 大己貴命が祀られています  軍馬繁殖飼育の守護神で 流行病 精神病に霊験あらたかです  末社の高寵神Takaokami-no-kami 闇寵神Kuraokami-no-kamiの姿は 狼とされ、邪悪払いのご利益が あります  道に迷った時 神の使者の善良な狼が、狐や狸や貉に 騙されないよ う道案内をしてくれ 人里迄 送ってくれます。送り狼には 塩を お礼にあげないといけません

台ヶ峰木野山神社:十力城跡 高谷1038番地の北 北緯34度51分49秒東経133度46分42秒付近で、長丸の台ヶ峰の頂上に建ちます  明治9年から中国地方に大流行した コレラ病の業病を 免れんがために、高梁木野山神社を 勧請されました    高寵神:山上の龍神 水の神 水源の神です   闇寵神:深谷の龍神で高寵神と対の神です  降雨 止雨 湧水 天候 心願成就 縁結び 子 授け 就職 入学 企業間協力 家内安全 商売繁盛除 招福 航海安全 水難除け 防火守護 五穀豊穣 水関連事業守護 天気関連事業守護 農業関連事業守護 戦勝祈願.等のご利益があります。    貢:上田東1169・1559番地等 北緯34度54分6秒東経133度47分56秒付近    平成25年(2013年)9月8日

  

百物語

送り狼 Escort wolf

昔 円城の魚釣りが趣味の 男が病気平癒を 願い木野山神社に参りました。お詣りすると 参詣者達が面 白そうに送り狼の話をしていました。お詣りすると 直ぐに病は治り 元気になると 考える事は魚釣りばかりになっていました。「旭川では魚が 良く捕れる」と聞くと 居ても立ってもいられず「神瀬には 山犬(ニッポンオオカミ)が出る」と忠告する者がいたので、木野山神社の護符と 塩を持って 旭川に向かいました。魚が 沢山釣れたので 意気揚々と 暗みかかった 水谷街道を帰って行くと 狐に出も騙されたのか 迷う筈の無い道で 道を失ったのです。元に戻ろうとすれば する程迷うのです。本宮山の頂上には 正法寺が有るので、寺で一晩厄介になろうと 上に上に登って行きました。頂上が 近づき 正法寺の光が見えました。処が山犬が 沢山現れ行く手を 阻んだのです。「山犬は火に弱い」と聞いていたので 提燈に火を点し 登って来た道を下り 始めました。すると山犬は 後を追って付いてきました。恐ろしさで 強張る足が 何かに 躓き転びそうになりました。誰が言ったか「木野山の狼は 家まで送ってくれると言うが 転ぶと食い殺す」と聞いていたので、堪えに堪え 座ったと見せかけ 燃えている提燈から 火を 取り 煙草を吹かし 心を落ち着かせました。煙草を吸っている間は 山犬達は 鋭い目をして遠巻きにしていましたが、その火が 消え あたりが 三日月の明かりだけになると 近付いて来て しきりに 尻の辺りや魚籠の匂いを嗅ぐのです。魚をやると 山犬が 美味しそうに食べ、次第に緊張を解して行きました。「こいつ等 犬と同じに振る舞う」と気が付くと 安心した気持ちになりました。すると最も親し気な一匹のが 先導するように 歩き始めました。男が暗く足元が見えない道を 足先で探りながら 付いて行くと 地面に残る男の移り香を辿り 家の近くの川迄 送ってくれました。山犬が 迷っているので「ありがとう もう道がわかるのでかえって良いよ」とお礼を言って をやると、山犬は 嬉しそうに塩を 舐め山に帰っていきました。「三谷野呂の百怪談」  平成25年(2013年)9月8日

 

2017年3月31日に【岡山「へその町』の民話-岡山県吉備中央町の採訪記録 立石憲

利 吉備中央図書館 吉備人出版】が発行されました。P250~P251に」「送り狼」と言う民話が載せてあります。