昔 正法寺の住職が 金製の薬師如来像を 溶かして鋳造された 茶釜を埋め、その場所を 暗示するために「朝日差す 夕日が裏に綱一本の届きたき 石塔のその下にあり」の歌を残したと 伝えられていました。誰も そんな噂を「馬鹿らしい　こんな意味不明の文章なんか 子供の悪戯だ」と 思って、耳も貸さないでいたのです。夕日が裏と言う地名も無く、夕日の裏の意味も解かりません。綱一本の長さも 曖昧な表現なので 特定できませんし、石塔も あちこちにあったからです。ある日、修行僧が やって来て「差すは 目標方向を示すの意味があり、裏には 反対側の意味があり、綱には 注連縄Simenawaの意味がある事を 教えてくれました。村人は「正法寺から見て 朝日が昇る方向で 夕日が沈む方向の反対の注連縄の張られる習慣のある 注連縄一本程の大きさのポツンとある石塔の下にあるんじゃ  夕日が沈む方向の反対は 朝日が昇る方向と同じじゃ」と 理解しました。そこで、本宮山の正法寺の東方向で 注連縄が絡む石塔を探すと 急峻な山肌には 石塔等は無かったので、ならば正法寺の墓場だろうと 散々に探しましたが 見当も付きませんでした。ところが 小森の湯元を耕していた男が その話を聞いて「簡単に 謎の位置は 正法寺の西じゃ  朝日は東から西に射す」と 言いだしたので、村人達は 湯本に注連縄が 張られていたので 湯所付近にあった 宝篋印塔付近を 勢に任せ掘りました。なかなか見つかりませんでしたが 夕日があたる場所を掘っていた者が「あった」と 喜びの声を上げ、仏像を 高々と差し上げました。

綺麗に洗って見ると 見事に金色に 輝きました。発見者は 家に戻り自分の物にしたく 蔵の中に隠しました。丁度 その頃 悪性の流行性の風邪が 隣の旭村まで迫って来ました。村人は 天津神社の神官に司られ 風邪追いをし 風邪を小森の川戸に 送ろうとしましたが、大雨になったので中止し、皆で 紳酒で 酒盛りをしました。大酒を喰らった仏像の隠匿者は 風邪に 罹りあっさりと死んでしまいました。すると 例の旅の僧が 隠匿者の家を訪ね「薬師如来 を暗い蔵の中に隠してたので 罰にあったのじゃ  蔵から出し 薬師如来を 祀りなせぇ 薬師如来は 病を癒す仏じゃ  病魔退散を 願いなされ  そうすりゃぁ 小森に入った風邪も 大して広がらず 治まる」と 告げたのです。仏の祟りに 驚いた家族の物は 仏像を 蔵から出し 村人と相談し 薬師堂を建て 仏を祀ると、見事なご利益が 発行されました。その旅の僧侶は 村人が かつて さんざんに 世話になった 弘法大師の生まれ変わりであると信じ、弘法大師に 感謝し 薬師堂の隣に 弘法大師を 祀り大切に守りました。蓮池の判じ歌は「朝日射す 夕日が裏の橋の元 ミツバウツギのその下なり」で あり、小森の判じ歌は「朝日差す 夕日が裏に綱一本の届きたき 石塔のその下にあり」と 知り 又 薬師如来が 発掘された場所が 正法寺から比較的遠い上、金の茶釜が 薬師如来に 戻る筈がないと思い、蓮池の茶釜と 湯所の薬師如来は 別の物であろうと 小森の者も 神瀬の者も考え、金の茶釜探しを その後も試みましたが 未だに見つかっていません。「吉備中央町の民話（1）」を基にして「小森 星原の風邪送り」「蓮池の金の茶釜」を組み合わせた物語

本宮山：神瀬北緯34度54分13秒・東経133度50分44秒　小森薬師堂：小森湯所 北緯34度54分59秒・東経133度48分10秒 小森温泉の近くに 小森の宝篋印塔へ行く道案内の標識があります 宝篋印塔は 小森薬師堂の堂の地内に有ります 崖下の地神の石碑には 注連縄が 張られており、その頭に 樹が 腰掛けているように見えます　小森の川戸：小森川戸 北緯34度56分38秒・東経133度48分48秒 ４２９号線の大師山トンネル前から 旧道を 旭川沿いに 江与美橋に向かい 江与美橋の手前で 大きくS字カーブする右手に 弁天堂が有ります その下が 小森の川戸跡です    天津神社：北緯34度55分44秒・東経133度48分38秒    小森温泉湯元：北緯34度54分57秒・東経133度48分10秒     平成２４年（２０１２年）１１月１３日