尾原 尾原の狐火  Jack‐o'‐lantern in obara


尾原の少年が、落合の親戚に正月飾りを届けるよう父親から 使いを頼まれました。

天神様(現在の重岡神社に 安全を祈願し、豊岡川に沿って 京面 中渡へと 進み、城山に 挟まれた 暗い夜道を 北に向かって 行ったつもりでしたが、中渡橋を渡り 西の道に誤って入りました。どうも 道に迷ったらしいと 気付き、誰かに道を尋ねようと 辺りを見渡しましたが 家は見当たりません。遠くの山の中腹に 青白い光が ポッポッと 上がっています。「誰かが 火を燃やしているに 違いない」と 思い、山道へ入りました。足元は 暗く何も見えないので、草木の少ない所を 足 で 探りながら 進みました。明かりは 上がり続けていたので 確信を持って 前進できましたが、ドンドン寂しくなり 道は 細くなってゆきました。不安になって 引き返そうとしましたが、今来た道が見えず どの方向に 帰れば良いかも 解らなくなっていたので 残された方法は 火を燃やしている人に 助けを求めるしかありません。舞い上がる火を 頼りに 山を登って行くと、足元に火の玉が 転がっていました。「気持ち悪いのですが、動かないので 宙狐かも知れない。ならば 蹴飛ばして消そう。」と 考え、恐ろしささを 堪えて 蹴飛ばしてみました。何やら 乾いた草鞋Warajiの様な 感触の物が 足先に触れ、火の玉は 二つになって 地に落ちました。一つは 未だ足元に 残っていたので これも 蹴飛ばすと 二つに分かれ、遠くに 跳ねて行きました。「やれやれ。」と 思い 明かりに向かうと 明かりに 少しずつ近づきました。狐の鳴く声が 陰に篭もっていて、気持ち悪い事 夥しいObitadasiiので「さっき 宙孤を蹴飛ばした 。狐が怒っている。」と 思いました。明かりが大きく見えるようになり「もうすぐ人に会える。」と 心は弾み 安堵が生まれました。しかし 闇夜とは 言え明かりの上がる辺りに 家らしい物は有りそうになく 光は暖かそうな黄色い色ではありません。やっと 眼前を妨げる茂みを超えると 土が盛り上がった所から 人の頭程の青白く透き通る光の玉が 次々立ち上っていました。宙狐か 鬼火だと 解ると 始めて 少年は 恐怖のどん底に 落とされました。しかし 初めて見る光景に 神秘的な美さえ感じ 見とれていました。「仕方がない。ここで 一夜を過ごすしかない。」と 覚悟しました。狐の鳴き声が 神秘の恐怖に 微妙な味を添えました。直ぐ狐の鳴き声が近づき、暫くすると 狼(の遠吠えが 聞こえてきました。辺りは 極めて静寂だったので 狼や狐の移動が 手に取るように解ります。仲間を集める狼の遠吠えが ますます近づいて来ます。火の玉の上がる辺りで 穴を掘る音がし 次いで 何かを引きずり出す 音がしました。すると 目の光る何者かが 直ぐ傍にいて 体を寄せてきました。少年は 寒さと恐ろしさで 震えが止まりません。光る眼が 集まって少年に 寄り添い 温かさを 恵んでくれました。「沢山の光る目じゃ。手におえん。どうせ死ぬのなら 早く殺してくれ。」と 思い ジーッと動かないで 蹲りUzukumaariました。狼が 唸りながら 何かを 食べています。手に樒Sikimiの木の枝が触れました。狼は 樒の匂いが 嫌いだと 聞いていたので 思わず折り取り 葉をもんで 樒の臭いの結界を作ると、狐の匂いを 発する何者かも 結界に 頼って 体をさらに 密着して来ました。守って欲しがっているようなので  狐の匂いのするもののために 樒を 集めてやりました。

狼が こちらを伺いに来ました。狐の匂いのするもの達は それなりに 威嚇の声を上げています。少年は 樒の枝を振って樒の香りを 狼に 嗅がせました。何かを食べて 満腹の狼は 樒の香りを 嫌って退きました。宙孤は 人の気配で 消えると 言いますが、この光りは 大きさと 量を増しました。上がり続ける宙狐を 愛でながら、狐の匂いのするものとの友情に 感謝しながら 夜明けを 迎えました。思った通りそ の生き物は狐でした。宙孤と 思っていたのは 鬼火で 光の玉の登っていた墓は 壊され 無残にも 埋められたばかりの遺体が 狼に食い荒されていました。帰り道 道に落ちていた宙狐を 探しました。皮と骨になった 鼬Itayiの成れの果てが、4つに 分かれ 散らばっていました。道を急いで 落合に行き  正月飾りを 親戚に届けると、親戚は 喜んで 飴玉を 褒美にくれました。昨夜の事を話すと 無事であった事をねぎらってくれましたが、宙狐の正体や 狐の友情については 信じてくれず「狐に化かされた」と 馬鹿にされました。少年は この貴重な経験を 其の後、この時以外 話す事はありませんでした。「著者の父より口伝」  宙狐・中狐:山際等の狐火の事で、岡山の備前地区や 鳥取での独特の呼び名です。日本各地の狐火の伝説は 概ね溝部の宙孤と同じです。狐火は 人気を嫌い 寂しい場所を 選んで現れ、人の気配で 姿を消すと言われます。だから、狐火を頼りに 夜道を進むと  ドンドン寂しい山の中に 迷い込まされます。備前の先祖墓や 埋め墓(死体を埋葬するだけの墓で祭りません)は 寂しい山の中にありますhttps://ja.wikipedia.org/wiki/迢千https://ja.wikipedia.org/wiki/鬼火」 鬼火:人の遺体より生じたの狐火 塚原橋:刈山 北緯34度55分16秒東経133度44分59秒    重岡神社:塚原 北緯34度55分8秒東経133度45分5秒    溝部下京面橋:北緯34度56分13秒東経133度44分40秒   溝部上中渡橋::北緯34度56分18秒東経133度44分31秒  平成23年(2011年)11月23日

 

平成29年(2017年)3月31日に【岡山「へその町』の民話-岡山県吉備中央町の採訪記録 立石憲利 吉備中央町図書館 吉備人出版】が発行されました。P232~P235に「狐火」「宙孤」が載せられています。 平成31年(2019年)3月31日に【岡山「へその町」の民話追補版-岡山県吉備中央町の採訪記録 立石憲利吉備中央町図書館 吉備中央町教育委員会】が発行されました。p47に「狐火」の話題が載せられています。