神瀬 「オウホラ」の法螺吹き一家 Family of bigmouth lived in Oohora


 昔、昔、気の遠くなるような昔、本宮山の麓の近く 神瀬のオウホラに 法螺吹きHorahukiの5兄弟が 住んでいました。その年の憂さを 法螺を吹いて 払拭しようと法螺吹きごっこを していました。兄弟の法螺吹きの技の凄さの 程の噂(は 日本中に広まり、日本一を 気取る法螺吹き達が 法螺吹き合戦を 申し込んで来るようになりましたが、挑戦は 悉く退けられました。ある日、その噂を聞いて またもや 日本一の法螺吹きと 自称する男が やって来ました。   男:ここが 法螺吹き一家の家か。わしは日本一の法螺吹きじゃ。一家の者に 法螺吹き競争を 申し込む。わしの庭には 富士山があり 琵琶湖が ある程 広いんじゃが、何と 狭い屋敷じゃ。わしの家は 1年中 掃除をしても 終わらん程じゃ。一番年上のご家族の方はおるかや。 娘:法螺吹き一家は 家Utiじゃ。そうですか。広過ぎては 掃除が大変ですか。大兄ちゃんOke-tyanは今、留守をしております。なんでも「お庭は 広う過ぎて 掃除が行き届かんで 困っているお方がいるので 手助けして欲しんじゃ」と言う人に 出合ったんで、今朝 早う「駿河国の大掃除に 行く」と 言っていました。あなたさんの家のお庭かしら。いっぺんこくに  吹いて ほぐぅ 吹き飛ばしてくれるじゃろうと思いますが、お家が めげたなら 堪えてつかぁせぇ。 男:むむ。てごわい。またまた質の悪い法螺じゃのう。わしの富士川で 河童を飼っておる。今じゃぁ1000匹には なったじゃろうかのう。増え過ぎて お八つの尻小玉が 足りん。法螺吹き競争に勝ったら、ご家族の尻小玉を頂きたい。河童を 口減らしできん。2番目のお方は、ご在宅かや。 娘:そねえに ゴンゴが増えたんなら 村人のお方達は さぞお困りじゃろう。昨日 富士川のお百姓の村で「ゴンゴが 童ぇ 痛めるんで いけくらわん」と 言っておられたので、大兄ちゃんの出た直ぐ後に 中の兄ちゃんA-tyanが「ゴンゴをぉ 退治に行く」と 言って出かけて行きましたぁ。じゃけぇ 今は留守をしております。お帰りになる頃には 一匹も居るまぁ。困りましょうか。 男:いやそれなら構わんが、河童に 八つ裂きにされては えらい事じゃ。直ぐ呼び戻しなさい。この前も 相撲取りや 腕自慢の武将に 攻めさせたんじゃが、河童共は「仰山の尻小玉が 頂けた」と 喜んでいましたぞ。 娘:兄ちゃんの おならのカザぁ もんげぇ臭いのよ。家の中で 屁ぇこかれると 1年も カザが残るんで  山の上で 海に向いてこいて貰っとります。一発で 富士川全体が おならの風で 包まれ、カザで狂い死にしましょう。2番目の兄ちゃんは「1000匹のゴンゴなんぞ 屁の河童じゃ」と 言いっていました。 男:屁の河童ですか。うーん。手強い。あましを食いそうじゃ。じゃが しかし、吉備の国は 小まい溜池ばかりで 水が足りないじゃろう。ほれ、畑もパサパサですよ。なんなら 庭の琵琶湖水を 分けて差し上げましょうか。50万人の使用人が 居りますので、ここへ 運ばせましょう。3番目のご家族の方は おられますか。 娘:ほんまに 済いません。弟坊兄ちゃんOtonbo-a-tyanも留守う致しております。昨夜の夢のお告げで「琵琶湖は 満々として 溢れそうじゃ」と 持ち主のお方がおっしゃったらしくてて「水嵩ぁ 下げて来る」と 言って、中の兄ちゃんが出かけた後 直ぐに 出かけました。持ち主の許可が あったと 屋根裏の鼠Nezumiに 使いを 頼みましょうか。家の鼠は 空ぁ飛べますけぇ、小一時で 追い付きます。 男:お1人でお出かけですか。どんな道具を持って行かれたのですか。まさか手ぶらじゃぁないでしょう。

 娘:せわぁねぇ。小兄ちゃんKoma-tyanは大の飲み助で この前なんぞ 備前中のお酒を全部 いっぺんこくに 飲み干した程じゃ。琵琶湖の水の半分位なら 飲み込めるじゃろう。お帰りになった頃に 琵琶湖が てんから干し なっとたら 堪えてつかぁせぇ。帰って お小用Okoyoで 村中の田畑ぁ 満たしましょう。あんた方のために 用心に お小用を 少し取って置きましょうか。 男:うーん。うーん。手強い大言じゃ。しかし 備前加茂一高いと自慢されている 本宮山の形は富士山に 似ているが、わしの庭の日本一の富士山とは 高さも美しさも 比べ物にならんし。1年中雪を履いておる。高貴な方々の登山だけでも 無量大数を 数えます。ところで4番目のご家族は ご在宅じゃろうか。   娘:残念ですが 出かけました。末の兄ちゃんが 今日の明け方に「富士山にお参りする人が 多過ぎるんで、重みで 今日にも 崩れる」と 本宮山の気比神社のお告げを 受けたんで 富士山が めげんよう 補強工事しに、3番目のお兄ちゃんが 出た後 直ぐに 楊枝Youjiう ぎょうさんこさえて 出かけました。「富士山なんぞ 楊枝で チョチョイのチョイとつっかい棒するだけで 充分じゃ」と 言っていました。 男:完全に負けじゃ。ところであなた様は どぎゃぁなお人ですかのう。随分と幼いようじゃが。 娘:うちは 5番目の妹じゃ。幼い等と 見え透いた お世辞を言わんで ちょうでぇ。お恥ずかしい。もう 1000も歳を 取っております。法螺吹きの経験は 兄ちゃん達には とても及ばないんじゃが、それなりには やりつけております。面白ぇお話を していただいたんで 随分と 長話をしました。間もなく お兄ちゃん達が 仕事を終えて帰ってまいりましょう。兄ちゃん達とも お手合わせして下されぇ。喜びます。さぁさ、おえへ お上がりんせぇ。お茶でも 入れますけぇ。 男:いやいや。末のお方の 互角のお手並みを 拝見させて頂きました。長くお話ししたので、帰る時間に なりました。お兄さん達に お合いできないのは 残念ですが、今日は これまでにして 後日、弟子を 連れて出直しましょう。お兄さん達に 宜しゅぅお伝えください。それじゃぁ、御免ください。 そう言うと いそいそと 駿河の法螺吹きは 逃げるようにして帰って行きました。「昭和30年(1955年)の野呂 百怪談」  吹上:神瀬810番地・875番地 オフホラ:神瀬1618番地・1621番地 本宮山:上田東 北緯34度54分13秒東経133度50分44秒    大兄ぇちゃん・おけぇちゃん:一番上のお兄さん    小兄ちゃん・こまぁちゃん:末のお兄さん    兄ちゃん・あぁちゃん:お兄さん    弟坊・おとんぼ:弟    いっぺんこくに:いっぺんに    ほぐ:ごみ    めげる:壊れる    こさえる:作る ゴンゴ:異国の意味不明の言葉を話す者 妖怪の中でも河童 当地の河童は オナラの匂いが 嫌いで直 接嗅ぐと 死ぬとされます    カザ:匂いや香り    いけくらわん:煮ても焼いても食えない    せわぁねぇ:手間がかからない  簡単だ  問題はない    お小用・おこよ:小便 おえ:畳の間  平成23年(2011年)9月22日