灰神楽の灰坊物語 Tale of Haibou with  cloud of ashes


 昔 昔 音三郎 登免Tomeと言う物凄ぇMonge-e 分限者夫婦がおった。男ぁ15人  女子Onaga15人も 働いとった。主人は もう45歳で 年も取ったが 一人息子の朝太郎は「気に入った娘ぁ居らん」と 言うてYuute よう 嫁(取らないでおった。ある年の朝太郎の初夢に 竈の神様Kamado-no-ksamisamsaが 現れ「お前の嫁ぁ このわしが世話してやる。 この娘ぅ娶れMetore。 必ずや良ぇ子ぅ産み 家ぁ栄え 家の行く末ぁ 安泰じゃ。よう見ときんされぇ。この娘じゃぁ。この村に居る。お前ぁこの娘に この正月に 恋ぃするじゃろう。わしぅ一番大切にしてくれる娘じゃぁ。この娘のから(姿形)と眼ぇしか見せられんのが 残念じゃ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハは。」と 笑ぅて いんで(去って)行ったんじゃ。朝太郎の父親ぁ 年老いた上に 足ぃ悪くて 働けんようになったけぇ この年から 朝太郎を 家の家長として 正月ぅ迎える事になったんじゃ。朝太郎は 夢ぇ信じて 心を躍らせ 一番鶏が 鳴くと いきのう(すぐに)飛び出し 燈明し、三宝に重餅Kasane-Motiぅ入れ 蜜柑Mikanを添え 昆布ぅ巻き 豆 栗 干柿 新箸ぅ添え 年神に供えたんじゃ。朝太郎が起きる前から竈掛かりの下女ぁ 顔ぅ炭だらけにして 既に働いていたんじゃ。汲川で 注連縄Simenawaぁ張った若水桶に 若水ぅ汲み 持ち帰るんじゃが 若水ぅ汲むと言うても 家族と奉公人全員分を 一人で運ぶんはとてもできんので 竈係りの下女に手伝わせたんじゃ。

戻ると直ぐに 下女ぁ顔も洗わん内から 茶と雑煮Zpuniの準備ぅしたんじゃ。歳神様ぁ迎えるために 大晦日を寝ずに過ごした者達ぁ 次々に若水で顔ぅ洗うた。いつもの年でありゃぁ 家族と奉公人は 別々に朝祝いをするんじゃが この年ぁ朝太郎の「村中の娘の美人較べぇする。一番の者にゃぁ 特別の年玉ぁ上ぎょう。」との発言で 皆で一緒にする事になったんじゃ。村の女達ぁ「嫁選びじゃろう。 玉の輿の好機じゃ。」と 沸き立ち 懸命に化粧し 着飾ったんで 男達も 興味津々となったんじゃ。その頃 竈係りの下女ぁ 豆餅ぅ年神様 ロックウサン(土公神 竈の神)に供え 湯で餅 法蓮草 昆布 牛蒡 豆腐 鰤で 澄まし汁の雑煮の用意ぃしていたんじゃ。湯で餅ぁ 歳の数だけ用意するんで 雑煮作りぁ ぼっこうよだつ(手間がかかり面倒)作業じゃった。音三郎の場合 普通の大きさじゃ食い切れんけぇ 46個の大豆位の大きさの湯で餅にしなけりゃおえんかった。お屠蘇Toso 数の子 煮豆等ぅ献立したんじゃ。朝祝いが終わると 皆が待ちに待った美人比べが 始まったんじゃ。女達ぅ立ち並ばせたんじゃが 誰も皆 厚化粧じゃったけえ 朝太郎の夢の中の娘ぁ 誰だか判別できんかったんじゃ。竈係りの下女ぁ 奉公に上がった時ぁ 襤褸着Boro-giに泥まみれの貌Ksaoじゃたが そのまま竈係りにされたんで 竈や 火鉢や 囲炉裏や 風呂の管理や 掃除で 誰よりも早ぅ起き 誰よりも遅ぅまで働き 何時も頭ぁ灰神楽Haikaguraで白っぽく 顔は煤Susuで汚れていたんじゃ。仕事柄 主人の朝太郎たぁ何かにつけ 合ぅていたんじゃが 顔ぁ煤だらけじゃけぇ 本真(本当)の顔ぉ見ておらん。ほんで 家の者も 奉公人も 本真の名前ぇ呼ばんで「はいかぐらのはいぼう」と 呼んでいたんじゃ。じゃけぇ 美人比べに 参加せんでも 誰も気に留めんかったんじゃ。気に留める者がおったとしても「美人比べに出るまでもねぇオブスじゃ。」と 思うぁ。氏神に初詣しながら しっくりゆかん気持ちで「あれぁやっぱり唯の夢じゃた。」と 思ぅたんじゃが なぜか 諦め切れないんじゃ。正月2日 男達ぁ綯い始め 鍬始めぇしている間や 女達が書き初め 縫い初め 掃き初めぇしている間も ウロウロし 顔ぅ確かめて歩いたんじゃ。

4日 焼き初め 炒り初めぁ はいぼうがしてくれたもんじゃけぇ 朝太郎は 元気に 山入りできたんじゃ。6日 はいぼうが 摘み始めぇし 7日に 七草雑炊ぅこさえ朝太郎の万病除け 邪気払いしてくれたんじゃ。9日 はいぼうは 山の神祭りの会場造りと酒の準備 料理の寿司 刺身等を こさえて(つくって)くれたんで 朝太郎は 当家Touyaの大役ぅ無事に果たす事ができたんじゃ。11日 はいぼうが 大鍬始めの年鉢の餅ぅ切り雑煮をこさえくれ 朝太郎ははいぼうが 世話ぁしてくれとった牛ぅ連れ はいぼうが用意した餅ぅ持って ヤレボウに 出掛けたんじゃ。その日 近所の子が コトコト様ぁしに戸を叩くんで ご主人の朝太郎の代わりに はいぼうが コトコト様に 用意していた蜜柑とお菓子を出してやるのを 浅太郎はなにげなく見ていたんじゃ。14日のドントの日にゃぁ はいぼうが お飾りぅ集め餅つき臼の上に飾り 小豆粥ぅこさえ茅の箸で食べさせてくれたんじゃ。食べ終わった箸ぅ投げる鴨居ぁKamoya-a  綺麗に磨かれておって 朝太郎は うもう(じょうずに)鴨居に投げ越させたんじゃ。夕方ドントの会場に はいぼうが 御飾りと餅ぅ担ぎ お供をしたんじゃ。火箸青竹でこさえ 焼き餅ぅ焼き 持ち帰り 年神に祀った後 残りゃぁ皆に配ってくれたんじゃ。同時に 焼け焦げた松ぅ 炭だらけになりながら持ち帰り 家の入口に掛け 虫除けにしてくれたんじゃ。夜にゃぁトントン様の行事が始まるんじゃ。近所の子供達が 戸ぅ叩き隠れながら杓ぅ差し出すと そけぇ小豆粥ぅ注いで食べさせ 夏ガメ(夏病み)ぇ防いでやるんじゃ。近所の親御ぁOyaga-a 朝太郎に礼を言ってくれるもんじゃけぇ 良ぇ気持になれたんじゃ。はいぼうは 年神が帰る日の送り正月にも 灰神楽ぁ浴びながら 雑煮ぅこさえていたんじゃ。朝太郎は「正月ぁ 今日で終わる。やっぱり初夢ぁ正夢じゃあなかったか。」と 福娘が現れん事に がっかりじゃぁ。余りの気落ちと 寒さに耐えられんで 竈の火に当たりに来たんじゃ。ピカピカに掃除されとった竈に 手を添えると 暖こうて 気持ちが蘇えったんで 冷え切ったお尻も 温ようとしたんじゃ。お尻ぅ竈に乗せると ぼっこう心地よくて 朝太郎は 一瞬 初夢の事ぅ 忘れうっとりとなった程じゃった。新しい薪Takigiぅ抱えて はいぼうが戻って来ると いきのう(そのちょくごに)朝太郎を 突き飛ばし「若旦那様 オクドに お尻ぅ付けると 竈の神様に祟られます。 近所の沢口さんの息子さん  竈ぅ踏んだ時にゃぁ 足ぃ蛇に咬まれんさった。奥さんが 泥手で竈ぅ汚した時ぁ 指に怪我なさった。沢口さんの檀那さんが 塵Tiriぅ掛けた年にゃぁ ぼっけぇ不作で 年貢も納められんでしたろう。」と 言って激しく頬玉Hohodama)aぁどやした(激しく叩いた)んじゃ。朝太郎は 父親にもどうつかれ(叩かれ)た事ぁありぁあせん。一瞬 業が(いかりが)湧きかけたんじゃが はいぼうの真剣な目に 涙が溜まっているんを見て「なぜわしを いきのう叩くんか。」と 心を鎮め尋ねたんじゃ。はいぼうは「うちの大好きな若旦那が 竈の神様に祟られて 宇喜多さんみてぇに 尻蓮にでもなって死んでしまう位なら 叩ぇて叱られて この家から追い出されるよりはぁ よっぽど悲しい。竈の神様を怒らせるんは きょうてぇ。 じゃけん  お諫めO-Isameしたんじゃ。」と 答え 体を引き攣らせ 泣きじゃくり始めたんじゃ。涙と煤で 顔ぁ真っ黒になったんじゃが 目 Manakoの中の円らな瞳Tubura-na-Hitomiぁ潤んでおったんじゃ。その瞳ぅ見た時 朝太郎の胸ぁキュンと何かに突き刺さられる感覚を 覚えたんじゃ。「そうじゃたのか。小汚いすばろうしい(貧相な)成り(格好)ぅしているんで この竈係りが 娘である事ぅ忘れとった。神様ぁ 確か一番神様ぁ大切にし 自分の一番近くにいると言うとったような気がする。それに この瞳ぁHitomya-a の夢の中の娘の物Monじゃ。 頭ぁ地べたなすり付けながら わしのために 竈神に 許しを請うてくれておる。わしの時間割(スケジ-ル)ぅ管理し  段取り良う準備してくれていたんは はいぼうじゃ。わしの家が 栄えているんも はいぼうのおかげじゃぁ。今まで軽く思うて女扱いにもせんじゃった 。申し訳ねぇ。いつまでもわしの側にいてくれえ。」と 心の中で叫んでいたんじゃ。抱きしめてやりたかったんじゃが 涙腺が重くなったもんじゃけえ 男が泣くんを見られたら 恥ずかしいと思ぅて 慌てて人の居らん所に 走って行ったんじゃ。その日の夜 朝太郎は 両親の前に出て「はいぼうを嫁にしてくれえ。」と お願いしたんじゃ。音三郎は「あがぁなどこの馬の骨か解らん者を この格の高ぇ家に入れる訳にはいかん。」 と反対したんじゃ。登免も「父親にも 手を挙げられなかったお前に 頬玉がまちゅうどやし(酷く殴)とっじゃぁないか。明日から暇ぁ 取らすけぇ覚えとられぇ。」と これまた ぎすう(はげしく)反対されたんじゃ。翌日から はいぼうは この家から姿を消すと 朝太郎は 病の床に着いたんじゃ。はいぼうが居らんように成っってからは この家の料理の味が落ちたんじゃ。竈は汚れ始め 奉公人や客ぁKakya-a「朝太郎が ガメてきたんは神の祟りじゃ。」とか「狐に憑かれた。」とか 言って 気色悪がって 家から離れて行ったんじゃ。祈祷師のご利益もなかったんで 医者は呼んだんじゃが 呼ぶ頃にゃぁ死ぬる寸前になっておって 竈ぁ埃まみれで 家も傾きかけとった。老夫婦ぁは世ぅ儚んで自殺しようと 首吊りに良ぇ所ぅ探したんじゃ。竈の上に太い都合の良げな(良さそうな)Hariが有ったんで それに紐ぉ 渡し 首にかけ 竈から飛び降りよう。」と 相談したんじゃ。じゃけれど「余りに竈が荒れとる。この汚いまんま残して死ぬるノんは ふうが悪ぃ(格好が悪い) 竈ぅ今夜ぁ 掃除して 死ぬんを明日にしよう。」と 気が合ぅて 竈と汲川ぁ 綺麗に掃除し 清々しい気持で寝たんじゃ。そうしたなら 音五郎の夢枕に 竈の神が現れて「久っさぶりに気持ち良ぇ。 はいぼうが居った頃ぁ 極楽じゃった。はいぼうを呼び戻してくれんか。そうすりゃぁ朝太郎の病気も治ろう。」と 言うたんじゃ。登免の枕元にゃぁ 水神が現れ「はいぼうがおれば 稲も野菜も良く育つ。良い子も生まれ家も 又栄えよぉ。」と 言ったんじゃ。二人ぁ 早起きし 同時に「死ぬるんは止めじゃ。はいぼうを呼び戻そう。」と 言いったんじゃ。それで はいぼうを呼び戻したんじゃ。すると 竈の煙が 元気よぅ立ち上り 家の中ぁ急に明るうなったんじゃ。はいぼうが 粥をこさえて朝太郎に持って行くと「あら 不思議。」朝太郎の死んだように 澱んでおったYodonde-otta眼の光が輝き出し 食欲も戻り みるみる元気になり 働けるようになったんじゃ。そりょう見て 逃げて行っとった奉公人も 戻って来 客も訪ねて来るようになって 家はまた栄え始めたんじゃ。そんな訳で 音三郎と登免ぁ  喜んで朝太郎とはいぼうの結婚を認めたんじゃぁ。はいぼうを呼び出し 風呂に入らせ 煤ぅ洗い落とさせ 髪ぅKamiu結わせ 綺麗な べべ(着物)を 着せたんじゃ。まあ はいぼうの美しい事。美しい事。3人は 腰ぅ抜かさんばかりにたまげたんじゃ。「はいぼうと呼ぶんも 何じゃけぇ ほんまの名前ぅ教えてつかあせぇ。」と 尋ねると、はいぼうは「ほんまの名前ぅ呼んで下さるんか。 嬉しい お福と言います。」と 答えたんじゃ。音三郎と登免は「いい名じゃ。朝太郎がお前を嫁にしたいと言う。 承知してくれるかどうか聞きとうて こうして呼び出したんじゃ。どうか わしらのした仕打ちぅ許してつかぁせぇ。朝太郎の嫁に成っちゃぁくれまいか。 こぎゃぁにして 手ぇ合して頼むけぇ。」と 言うたんじゃ。勿論 お福ぁ こっくりと 頷いたん(Unajiitanじゃ。目にゃぁ 嬉し涙が滲んでおった。咽ぶ声で「こぎゃぁに身分違いの女子Onagoでも構わんのですか。もったいねぇ事じゃ。 若旦那様が良けりゃぁ 異存が有るはずぁ ありゃぁせん。」と 答えたんじゃ。音三郎と登免は「夢の様じゃぁねぇ。わしらと 朝太郎の見た夢じゃ。」と 言うたんじゃ。二人ぁ 添った その年の暮れ 朝太郎の家じゃぁ 餅搗きぅしようとしていたんじゃ。朝太郎が  山に入り 松の先ぅ切り ふくらしの木と 樫の葉ぁ 松の樹の下の方を 1本に纏め括り付け 注連縄Simenawaぁ 張った奥の間の年神の両側の神棚の支え木に 固定し 台所の竈のオクド様 倉の神様 水神様に 注連縄ぁ張り 母屋の入り口にも青藁の注連縄ぁ張り 昆布ぅ飾り付けたんじゃ。餅搗きにゃぁ 親戚の者も集まり 午後一眠りしてから 年越蕎麦の夕食う済ませ 蒸篭Seirouで 蒸した餅米ぅ 臼に移し 奉公人の男2人が 杵ぇ振るい 女1人が返し手ぇして搗き 総掛かりで 丸餅 豆餅 牛用の黍餅 大きな重ね餅ぅこさえて 座敷に さらぴん(あたらしい)の蓆Musireぇ並べたんじゃ。べっとこ(さいご)に 餅に小豆餡ぅ 塗したお手入れぇ作り 幸せげに笑いながら 皆で食べたんじゃ。せぇから 親戚の者ぁ  お手入れぇ 土産に持って いんで 自分らの餅搗きぃするんじゃが 朝太郎の者もてご(手伝い)に行ったんじゃ。そうそう。 しでの木に豊作ぅ祈願しながら 小んめぇTinmee餅ぅ飾り付けた餅花や 木の桶に ぼっけぇ鏡餅を入れて 年鉢をこさえるんも忘れんかった。年神の飾りの松の車枝に 蜜柑を糸で 吊るし 下の樫にゃぁ 塩鰯 串柿  二股大根 餅花等を付け足したんじゃ。年神の正面にゃぁ 一文銭を 飾り 女竹ぇ割って 氏神様とお寺様のお札ぁ 背面の藁で編んだ背飾りに 刺したんじゃ。母屋のお飾りにゃぁ 蜜柑を付け ふくらしの木に付けたんじゃ。大晦日に 鰯(の頭に 竹串ぃ刺し「狐の口焼き」と 唱えながら火に焙ってこさえた年取り鰯ぅ 家の入口に刺し 厄病除け 魔除けにしたんじゃ。朝太郎とお福ぁ 息ぃ合わせ 協力して てきぱきと奉公人を 指導する姿ぁ そりゃあもう頼もしかったそうじゃ。www2j.biglobe.ne.jp/minwa/haibo.html」 岡山県備中町に伝わる「灰坊太郎」「はいぼう」「加茂川町の正月行事」を参考にした物語

 

灰坊太郎 Haibou-Tarou

朝日長者と夕日長者と 呼ばれていた分限者がおりました。朝日長者の奥方が 不幸にして無くなると 後妻を貰いました。朝日長者は 若くて美しい後妻を それはそれは大切にしていました。後妻は「前妻の子がいたのでは これから生まれて来る我が子が 身代を継げない。」と 思い出すと 前妻の一人息子の太郎が 疎ましくてならなくなりました。そこで 仮病を使い 祈祷師を呼び占なわせ「奥様の病は治せません。 ただ一つだけ方法が有ります。 息子様の肝を食べさせれば 必ず治ります。」と 言わせました。長者が 悩んでいると 太郎が「お父さんの大切な人を救えるのなら 死んでも構いません。」と 言ったのです。長者が ふさぎ込んでいると 後妻は「ほらごらんなさい。あなたまで病に犯されました。早く決行してください。」と 言われ仕方なく 息子を人目を避け 山の中に連れて行き 山刀を振り上げたました。」すると 後を付いて来ていた息子が 可愛がっている愛犬が  二人の間に割り込んで ワ ンワンと長者に話しかけてきました。長者は 訴えるような犬の目を見て「お前が 息子の身代わりになってくれると 言うのか。」と 尋ねると犬はコクリと頷きました。こうして 愛犬の肝を持ち帰り 後妻に食べさせました。太郎は 家に帰るに帰れないので 木の上で一夜を過ごす事にしました。眠り付けずにいると 木下の笹がカサカサとゆれ 女の人が現れました。太郎は「お母さま。」と 呼ぶと「愛しい 太郎や。母はあの世に行くに行けない気持ちで この世に彷徨っていました。いよいよ明日は 極楽に参ります。 太朗の事情を察して 閻魔様が思いのままの衣装を出させる扇と 思いのままの馬を出させる笛を 太郎のために授けてくださいました。ここに置いておきます。もう安心ですから 今夜は安らかにお休みなさい。 明朝 小鳥が 太郎を起こしに来ます。小鳥の言うがままに従いなさい。」と告げると ㇷッと姿を消しました。翌朝小鳥に 促されて目を覚ますと 小鳥が「付いてきなさい。」と 言うので 従ってゆくと 里があり 大きな屋敷が建っていました。この屋敷の門口に「風呂焚きを求む 高給優遇 夕日長者」と 書かれた紙が 貼られていました。太郎が 喜んで申し込むと「泥だらけの顔で どこの者か解らんが 真面目そうじゃ。しっかり働いてくれ。」と 言って 夕日長者は 雇ってくれました。太郎は 大勢の屋敷の人達の世話をしなければならないので 朝から晩まで 水汲み 風呂焚き 風呂掃除を しなければなりません。だから 灰神楽を被ったままで 働き詰め 灰まみれだったので 屋敷の者達は 太郎を 灰坊と呼ぶようになりました。そして 村を挙げての秋祭りになりました。屋敷の者達は 着飾って連れ立ち 全員が祭に出かけました。一人になった太郎は 久しぶりに風呂に入り 扇を煽いで出した衣装を身に着け 笛を吹いて 出した馬に乗って 祭場に来ると 村中の娘達が「どこの若様でしょう。」と 大騒ぎになりました。長者の娘は 灰坊が 他の女に捕られると思うと 悲しくなりますが 女の口から 男と一緒になりたい等と はしたなく 言い出す訳にもゆかず  病に伏せてしまいました。長者夫婦が 祈祷師を呼んで 占なわせると 祈祷師は「お医者様でも草津の湯でも まして私のような不調法者には お嬢様の病は治せません。病気の元は この家の中にあります。この家荷の男全員に 盃事をさせなされ。」と 神託を 伝え帰って行きました。夫婦は 「仏様が この家の男全員と 娘を婚儀させろと 言う訳がない。何かいわくがあるのだろう。」と 思い 爺さんも 小坊主も含め 男達 全員に お神酒を注いだ盃を 持たせ 一人一人娘に受けるよう勧めさせました。しかし娘は 誰一人の盃も受けようとしないので 長者が 困り果てると 奥様が「まだ一人男が 居ります。まさかと思いますが あの灰坊も男です。」と 言うので長者は「馬鹿も休み休み言え。 しかし まぁ仏様のご神託もある。」と 言って 灰坊を 風呂焚き部屋から呼び出し 盃を持たすと 娘が 頬を染めて 盃を受け 灰坊に盃を返しました。これを見て 夕日長者は 灰坊を風呂に入れてみると あの祭の若様になったのです。こうして二人は 結ばれ幸せにくらしたとさ。 https://ameblo.jp/16aoituki/entry-10675427049.html」「https://blog.goo.ne.jp/trx_45/e/84c322190aa3fc9400c5ef377c400224」 

 

はいぼう Haibou

昔 ある所に 大変な分限者が居りました。屋敷には 10人の若者と10人の娘が 大人達に交じって 下働きをしていました。分限者夫婦には 一人息子がいたのですが 困った事に 嫁を取らそうとしても「気に入らん。」と 縁談を悉く 壊してしまうのです。ある年 旅回りの劇団がこの村にやってくると 分限者は 奉公人達に芝居見物させることにしました。長期休暇に 若い男女は喜び 丁寧に風呂で磨きをかけ 立派なよそ着を着て芝 居小屋に向かいました。女将さんが 芝居を見に行かない はいぼうに「お前もお行きなさい。」と 言うとはいぼうは「私は汚れていて汚いし よそ行の着物もありません。」と 答えまました。女将さ んが「私の着古しの着物と 使い古しの化粧品を上げましょう。」と 言うと  はいぼうは 嬉しそうに「ありがとうございます。」と 言って受け取り 急いで 風呂に入り 化粧し 着替えて皆の後を追って 芝居小屋に行きました。芝居小屋に着くと 既に満席だったので 後方に立ち 芝居見物をしました。最前列で 芝居見物に夢中だった息子は 物の知らせがあっ て何気なく 後方を振り向くと 理想とする優しく気立ての優しそうな娘が 目に入りました。胸が張り裂けそうになり 直ぐにでも 席を立って 娘さんと話をしようと思うのですが 芝居の続いている間は 席を立つ事は 役者さんに対し 失礼になるので 幕間になるのを待って 娘さんを探しに 後ろに回りましたが  娘さんの姿を見つけられませんでした。がっかりして 翌日にも奉公人を従え 芝居見物に行きました。この日も 後ろからの視線を感じ 後ろを見ると あの娘さんが こちらを見ていました。幕間に 娘さんを探しても 見つかりません。落胆甚だしく 帰宅すると 思いは高まるばかりで 食も睡眠もとれません。何日も そんな悲嘆が続いて とうとう病に伏せてしまいました。医者を呼んで手を尽くしますが 悪化するばかりで 息子は衰えて行くばかりです。そんな 時 村を祈祷師が 通りかかりました。藁をも掴む思いで 祈祷師を呼び 止め占なわせると「わしでは手におえん。恋の病じゃもの。幸いにお相手は この家の中にいる。 阿保らしくって相手にできるか。」と 言ってサッサと 返って行きました。親夫婦と 番頭が 知恵を絞り検討した結果「家の中の娘達  一人一人を順番に 病気見舞いさせよう。」と 息子の好みそうな順に 病気見舞いさせました。ところが 息子はお相手が まさか我が家に居ると思わなかったし  芝居小屋で見かけた娘を 嫁にしたい等と 言えば 頭の固い両親に「そねえなどこの馬の骨とも解らん者を この格式高い家に入れられるか。」と 叱られるに決まっていると 思い込んでいたので 不愛想に「ありがとう。」と 一言いうだけでした。女と言えば年取った奉公人達と女将さんと はいぼうだけしか残っていません。夫婦も番頭も「あねえな小汚いはいぼうを 息子が気に入る筈もない。 じゃが万が一ということもあろう。」と 言って ぼうを 呼び出し 風呂に入れ 化粧させ 一張羅の着物を着せてみると 高貴なお姫様のよう に変身したのです。驚いて 息子の病気見舞いをさせて見ると 息子は 満面の笑みを浮かべ「この娘さんじゃ。はいぼうじゃと思うとった。」と 大声を上げました。夫婦は「どこの馬の骨‥‥」と 言いかけて ぐっと堪えて二人の仲を認めました。それからは 息子の病はみるみる癒えて 二人は夫婦になって幸せに暮らしたとさ。www2j.biglobe.ne.jp/minwa/haibo.html」  平成24年(2012年)1月7日