雛荒らし Coming together for Hinamaturi "doll's festival" cheer


昔 大きな農家で 江戸時代中期に 作成された七段の雛人形えを 飾り 豪勢な雛祭りが 行われていました。2月の中頃 蔵に仕舞ってあった大きな箱には 小さな箱が 幾つも詰められていて 一つ一つの箱には 個別に 雛人形や 飾り物が 綿と紙で 包まれていました。お婆ちゃんは 居間で 包を取り 丁寧に 細心の注意を払って 赤い毛氈を 敷いた雛壇に 一つ一つ上段から 飾って行きました。年長の女の子を 初めとして 女の子供達 6人が 手伝いますが 決して素手で 触らず 手垢を付けないように 注意しました。お婆ちゃんの厳しい目が いつも光っていたので 手間取り ました。ちらし寿司 蛤Hamaguriのお吸い物 菱餅 雛霰Hina-arare 白酒甘酒が 用意されました。 3月3日になると 近所の子供達が 連れだって訪れ 雛荒らしをしました。飲んで 食べて踊って 大騒ぎで「綺麗だね。」とか「美味しいね。」と 親から教えられたお世辞を 繰り返しました。中には お 調子者もいて 態と 甘酒と間違え 大人用の白酒を飲んで酔っ払い お雛様を 手に取って「何で こんなに古臭い物が大切なんだ。」と おどけながら眺めました。すると 雛荒らしに来た女の子達も 白酒を 飲んだ勢いで 内裏雛や 三人官女の美しい顔を 近くで見たくて 手に取ったのです。責任感の強い長女が 止めさせようとすると 取り上げられたくないお調子者の男の子が 乱暴に扱ったので 左大臣の矢が 折れたました。その男の子は 慌てて菱餅の端を千切って 糊代わりにし 矢を修復しました。粛々と行われた 昨年迄の雛祭りと異なり 子供達に とって楽しく賑やかでしたので アッと言う間の出来事でした。だから皆は「来年の来るよ。」 と 惜しみながら帰って行ったのです。その農家には 3家族10人の子供達がいたのですが 怒られるのが 怖くてこの事件を お婆ちゃんに 内緒にする事にしました。

お婆ちゃんは「病気に成ったり お嫁に行けなくなったりするから 早く片付けなさい。」とに言うのですが お婆ちゃんは「今日は曇りだ。」「今日は雨だ。」と 言って2週間経っても なかなか片付けさせてくれませんでした。良く 晴れた日が2日間続くと 子供達を集め 片付けさせました。お婆ちゃんに 雛祭りの日の事件を 気付かれないか心配しながら お婆ちゃんの細かい指図に従い お人形の持ち物等を 人形から外し 付いた塵は丁寧に落とし 直接 顔や手を 素手で扱わないよう  顔を紙で 包み 隙間を無くするために 綿と 紙で包み 所定の箱に納めました。子供達は 来年になって この時の事件の発覚を恐れ「面倒臭いから 雛祭りを止めよう。」と お婆ちゃんに 言うと「女の子の将来を 願って飾っているのだよ。」と きっぱりと言って 聞く耳を 持ちませんでした。そして一年が経ち また雛祭りの季節になり お雛様が 蔵から出されました。箱を開けてみると 右大臣と 左大臣の顔は 黒く変色していて 矢もポロリと 欠けました。お内裏様の衣装は カビが生え 三人官女の着物は 虫が食っていたのです。お婆ちゃんは 昨年の雛荒らしの出来事を察知し「誰の仕業かと 子供達に尋ねました。子供達が 無口に俯くと長女は「うちが 甘酒をこぼした。」と 名乗り出て 雛荒らしに来た少年達の罪を 被りました。お婆ちゃんは「もう この雛は 飾れん。 お前は 嫁に行けんかもしれんし 病気に成るかも知れんが 全てお前の責任じゃ。お前の責任で 円城寺の人形供養に出されぇ。」と 言って 放り投げました。長女は 今まで大事にしていた雛人形を 捨てる事ができず 昼過ぎまで 抱きしめ泣いていましたが 意を決し 重い足を ボトボトと運 び 円城寺に運びました。円城寺に着くと 人形供養法要は 既に終わっていて 残り火が チョロチョロと燃えていました。仕方なく 供養しないままで持ってきた箱を 火にくべると 火は勢いを取り戻しました。勉強好きで 働き者の長女は大人になると 街に出て働き財を 蓄えました。しかし 金持ちで美人の長女でしたが お婆ちゃんの言った通りに 縁談は無く 恋もないままで過ごす 内 パーキンソン氏病になりました。特効的新薬として l-dopa製剤が 開発されましたが 薬石の効果も限度があり 体が震え 自由に動けない病の苦しさと それに付け込む新興信仰宗教の余りに強引で しつこい勧誘と 布施の要求に 耐え兼ね「あの雛荒らしの日の出来事を悔やんで  親兄弟に 迷惑はかけられない。」と思いながら 神も 仏もいない この世を捨てる事を 選びました。「村人の実話」 現在では 生活習慣も変わり 大家族も 少なくなり 招待を受ける雛荒らしの習慣は 親しい家庭では行われていますが 押しかけの雛荒らしは 無くなりました。  雛祭りの迷信:雛祭りの後早くしまわないと 嫁に行けない。 人形供養の迷信:人形を 粗末に扱うと 不幸になる。 雛人形の仕舞い時:雛祭りが 終り空気の乾いた日に 仕舞ういます。 湿気があると カビが生え 手垢等の汚れが 黒く変質します。 本宮山円城寺:円城寺屋敷 北緯34度53分31秒東経133度48分22秒  本尊は 千手観音菩薩。 苦しむ者を 千の目だ見定め 千の手を以て 救って下さります。 ちらし寿司の海老:腰が曲がるまで長生きする事を願います。 ちらし寿司の蓮根:穴が開いていることから 将来の見通しが得られることを願います。    ちらし寿司の豆:健康(まめ)で働き まめに生きてゆける事を願います。    寿司:寿を司る食べ物とされ お祝いの席に用意されます。   蛤:女性をイメージさせます。対の貝殻でないと ピタリと合わないので 仲良く夫婦が 連れ添う事を願います。 菱餅:以前は 緑との2色でした。 菱餅の緑:植物の育つ大地を表し 長寿と健康を祈ります。 菱餅の白:純潔であることを願います。 菱餅の桃色:桃は 魔除けの効果があると信じられています。 雛霰:菱餅と同じ色で作られ 戸外で食べられるようにしたものです。 白酒:元は桃花酒Toukasyuで 邪気を祓い 気力や体力の充実する事を 願い飲みます。 甘酒:雛祭りの主役の子供のため 白酒の代わりに アルコールのない 甘酒が 用意されます。 円城寺人形供養:3月の第一日曜日に行われます。http://www.enjouji.net」     平成24年(2012年)12月30日