幸せはそこにある Happiness is sitting next to you.


 昔 貧乏神と 福之神は 犬猿の仲でした。そんな時 ある所に 働き者でしたが 貧乏な夫婦がいました。夜の星が まだ残っている内に 働き始め 陽が落ちても まだまだ働きました。雨の日は ワラ打ちや 草履編み 雪の頃は 竹細工に励みました。処が 撒いた種は 鳥が来て 食べられ やっと出た芽は 兎が来て 食べられ 残った僅かの葉には 虫が付き 食べられ 芋や木の実は 狸や 猪が荒すのです。収穫物も 鼠や 蛞蝓Namekujiの餌になり 稼ぎに 貧乏が 勝る事が有りませんでした。それなので 幸せとは お金持ちになると信じ 貧乏から抜け出したくて 二人で協力し 全ての欲を捨て 無心に働きに 働きました。激しい労働で 肉体は 鍛えられたおかげで 病気一つせず お腹も空くので 貧しい食事も 美味しく感じられました。ある年 年末も近付いたので「歳神様 。すまんのう 。作物が取れないので 良いお供えもできず おまけに いつも 忙しいので 埃まみれにして。でも二人達者で 有り難い事です。」と 詫びながら 久しぶりに夫婦は 年末の煤払いを始めました。すると 神棚の奥の方で コソコソ動く 痩せこけたイモリの黒焼きのようで顔で 猫背の小さな生き物が 腰を摩りながら 潜んでいました。驚いた亭主が その気色悪い生き物を はたき落とすと 奇妙な生き物は「正月の間だけは 歳神に席を 譲ろうとしていたのに 何をする。」と 痛い腰をかばいながら 家から逃げ出しました。すると 次の年からは 豊作で 沢山の作物が獲れたので 見る見る豊かになりました。する と作男Saku-otokoや 奉公人も集まって来て 夫婦は働く必要がなくなりました。美味しい物や 美味しい酒を 鱈腹飲み食いしている内に 見る見る 肥りました。毎日が 暇を持て余し 退屈でしかたなく 余計な事ばかり考えるので 人が信用できなくなりました。昼頃から 起き出しても 腹も減らないので どんな高級料理を 食べても 美味しいと 思えなくなりました。かつては 楽に登れた坂も 上り始めただけで 激しい息切れがし 足腰が痛くなり 病気がちになりました。醜い三段腹を 互いになじり合い  少しでも気に食わない事が有ると 我儘を言い合うので 夫婦喧嘩が絶えなくなりました。そうこうして 何年か経った年も暮れ使用人が 神棚を掃除していると、瓜坊のように 愛嬌のあるふくよかな生き物がいたので 使用人が 主人を呼びました。主人が「なんじゃ お前は。」と 尋ねると「わしは 福の神じゃ。貧乏から お前等を救ってやった。感謝せられぇ。じゃが お前様等が 怠け者になったので 家移りYauturiをしたいと 用意している処を 見つかった。」と 不機嫌そうに 答えるのです。主人は「なんで わしの家に 住んでいるんじゃ。」と 聞くと「わしは 隣村の庄屋の所に住んでいたが ある日 貧乏神が 突然やって来て 住処Sumikaを譲れと 言うので 譲ってやって 神様が 空いている お前の家にやって来て やったんじゃ 。庄屋が 怠け者になったので 家移りしたいと思っていたので 渡りに船じゃった。」と 福の神は 恩着せがましそうな顔をして 言いました。おかみさんが「そうか。あの時の小さな化け物は 貧乏神じゃっのか。あの頃は 仲良く助け合って働いていた。辛い仕事だったが それにも増して 貧乏神のご利益に 恵まれ 健康的じゃった 。うちは あの頃に戻りたい。」と 言うと旦那も「じゃぁ。わしも貧乏な時に がむしゃらに 働いていた時の方が良い。福の神様。我儘を言って済まないが 貧乏神様と 家移りし合ってくれまいか。」と 異口同音に 応じました。その頃 隣村の庄屋に住み着いていた貧乏神が「やっと 庄屋の作男も 奉公人 を追い出し 貧乏にしてやったのに 新しく嫁いできた来た嫁は ひどい嫁じゃ。 朝は 明けない内に 火を起こし 飯も作るし 掃除もする。物が壊れれば 何でも上手に直す。  積む肥Tumugoe(堆肥)にできる物は 絶対に捨てない。 あの嫁がいては 何もできず つまらん。そろそろ家移りしたいものじゃ。」と 思って 貧乏神は背中を丸めて 足を引きずりながら 出て行こうとしました。嫁様は 逃げ出そうとする貧乏神を 見つけると「待ってくだされ。 貧乏神様 。わしらは神様に気の毒な事をしました。父母のような怠惰な生活より  今のままの貧乏な方が 幸せじゃ。」と 言うと 婿も「歳神様のいらっしゃる間は ご不自由をかけましたが  荒神様と同じように お赤飯 やお餅を差し上げ 大事に祀っています。どうかこのままいてくだされ。貧乏神様。」と 異口同音に言うのです。居場所を失った福之神は 不思議そうに 小首を傾げ 住処を得るために 喧嘩している所でもないので  仕方なく両家から 袖を引かれ 頭を抱えている 貧乏神と 相談しました。貧乏神は 生まれて初めて頼りにされたのが 嬉しく 気分が良かったので 大嫌いな福之神の相談に 応じました。そして両神は 一緒に住むのは 嫌だったので 一日交替で 家移りする事にしました。両家と 両神は 毎日忙しい日と 安楽な日を 交互に楽しみ幸せに 暮らしました。両家の者も 二柱の神も「夢中の時には 不幸を感じない 。 我を忘れている時は 気持ち良い。幸せはそこにある。 幸せとはそう言うものだ。」 と語り合いました。それを見ていた歳神も「確かにそうじゃ。わしに頼られても 努力しない者に 徳等与えるものか。」と呟きましたとさ。 平成24年(2012年)12月25日

黒闇天と吉祥天Kokuan-ten and Kissyouten

貧乏神である黒闇天には 美人の吉祥天と言う姉がいます。吉祥天は 福を招き 黒闇天は不吉と災いを 招きます。ある時 吉祥天が 裕福な家を訪ねると 大いに喜んで 主人は 吉祥天を招き入れ 持て成します。暫くすると みすぼらしい身なりの黒闇天が やって来ました。黒闇天が貧乏神だと解った主人は 激怒し 黒闇天を 追い払いました。すると 黒闇天の後を追って 吉祥天も 家を 出て行きまました。そして 黒闇天と 吉祥天が貧しい家を訪れると その主人は 姉妹を一緒に 招き入れました。するとその家は 貧しくもなく 裕福でもないのですが 安寧な生活を手に入れました。吉凶は 表裏一体であることを 教えてくれる物語です。仏典「涅槃教 貧乏神の好物は 焼き味噌です。焼き味噌を作るため 柿渋団扇を 持っています。団扇で 財産を仰ぎ出すのだそうですが、正しく祀れば 福を齎すそうです。