下土井 谷口荒神のご利益 divine protection by Taniguti -koujin


下土井谷口の 大きなお百姓の 杭田の館に 下女が 奉公に出され、竈Kamadoの番を 任されました。真面目な 可愛い女の子でした。しかし女主人は とても潔癖な 性格の人でしたので いつも 「竈の火は 決して 絶やしちゃぁおえん 竈を 塵Tiri一つでも 汚したまんまに しちゃぁいけん 汲川Kumikawaに 落ち葉を 落としたまんまに しちゃぁおえんし 周りの草を 伸ばしちゃぁ いけん  荒神様の祠も 汚しちゃぁおえん」と 言われていました。ある年の大晦日に なぜか 竈の火が 消えてしまいました。用心のため 大きな榾木Hofdagiの火種を 灰の中へ 埋めて置きましたが、予備の火種を 取り出そうと 灰を掻き分けて見ると 予備の火種も 消えていて 大晦日の席の 囲炉裏の火も 消えていたのです。全ての火種を 絶えたのですから 大晦日の祝いのお茶も 料理も 追加できません。「火打ち石で 火を起すのは てぇてぇな事じゃぁない お正月の目出度い日なので お客に 恥を晒す事にる   ご主人の顔に 泥ぅ 塗る事になる  お雑煮が 食べられん 正月では 大歳神Oodosi*no-kami様にこの家が 祟られる  大晦日の席も 直ぐに寒くなる  女将さんに 知れたら どんなに酷く怒られるだろう  どこかで 火種を 見つけて 来ないと いけん」と 思いました。兎も角Tomokaku 家には 火の種が無いので 表に出ました。表に出て見ると 運良く灯りが 近づいて来るのです。「有り難い あの火を貰いましょう」と 思いました。灯の主は、ザンバラ髪に 赤ら顔で 目の大きい 筋肉隆々の 強面の 見知らぬ 恐ろし気な 大男でした。たじろいだのですが 切羽詰っていましたので 勇気を持って「火種を ちょうでぇ」と お願いすると、男は「大歳の日は 火事が 多くて忙しくて叶わん  お前様の家の 竈の火が あまりに大きいので 火事 と間違って 大事な火種を 全部消した   許せ  直ぐに 竈の火も 囲炉裏の火も 付けてやる  疲れたぁ  ちいとばぁ 休みてぇ  誰にも見られない所を 貸してくれ」と 頼み返しまた。

娘が「私の寝床の 納屋でも いいですか」 と 言うと「いつもは 石の上 に座っているけぇ 温かくて柔かい布団に 座れるのは 夢みたいで 嬉しいのう」と 答えるのです。「ひょんなげな 人じゃのう  火をもらったので お茶でも 沸しましょうか」と 言うと「お茶は 好まん  甘酒がえぇ  甘酒をおくれぇ」と 答えるのです。「お正月に 甘酒ですか  菓子は要りますか」と 言うと「火事は 要らん」と 言うので「菓子じゃ」と 言うと「仕事に 没頭しとるけぇ つい仕事の事かと 思うた  油を入れたけぇ 満足じゃ  寝むてぇ」と 言うのです。そこで 男を納屋で 仮眠させました。すると 男が寝付いている時 遠くで 火事が有り 火の子が 飛んできました。家族の者達は 徹夜で 大晦日を過ごしていたので 誰も 火の子が 飛んできた事に 気が 付きませんでした。無事に 正月の朝を迎え、徹夜疲れした 皆は 習慣通りの 寝正月を 決め込みました。家長が 若水を汲んで帰ると「水嵩Mizukasaが 低かった  何か 焦げ臭いぞ」と 言うもので 皆は 飛び起き 辺りを 捜索すると、裏口の家に 凭れmotare掛けてあった 炭俵に 火が付いて 全体が 真っ黒に 燃え上がった跡が 有りました。しかし 新築の家には 殆ど 火が 付かず、ほんの少しだけ 柱の一部が 黒くなっただけだったのです。家族の者達は「いや、全くの奇跡じゃ  昨夜の遠くの火事が 飛び火したのじゃろう  いつも竈係が オクド様 荒神様 水神様を大事にしとるけぇ 神様達が 守ってくれたんじゃろう  有り難い事じゃ」と 話し合いながら 荒神様と水神様に お礼に行くと 荒神様のお顔は 煤Susuだらけで 水神様は びしょ濡れでした。竈掛りの下女は 全てを 悟りましたが、大歳の日の出来事は 口にしないで「皆で 荒神様やオクド様や水神様を綺麗にしましょう 雪隠の神様もなぁ」と 言うと、皆は 賛成しました。それからは 家人 奉公人 皆で神々の祭りをしました。それで 火種が 切れる事もなく 火事もなく 水も絶える事なく 健康にも優れ 家は栄えました。「下土井谷 口の村人のお話」     口荒神: 下土井谷口172番地の家の裏手 北緯34度52分37秒東経133度45分27秒 三面六臂の三寶荒神が 祀られています。    谷口:下土井121・194番地等    ぇてぇな:大変な 甘酒:荒神の好物とされます。     平成23年(2011年)12月1日