神瀬 地獄から帰った男 The man returnerd from hell


昔 昔 話し好きの男が、法螺吹きの男と 話し込みました。法螺吹きの男は「世の中は広いと言ぅても地獄ぅ見て来たんは 俺ぐらいしか おらんじゃろう」と 言うと、話し好きの男は「地獄に 落ちた者が この世に戻れる筈が なかろう  大言Oogenこくねぇ どぎゃんして戻れたんじゃ」と 訪ねました。法螺吹きの男は「大言じゃぁありゃぁせんぞ 私Wasiの法螺吹ぁ 面白かろう  わしの嬶Kakaaは わしの法螺吹きが 聞きとうて 幽霊になっても 良ぇけぇ  あの世に行かんで 欲しい」と 思ったらしんじゃ  通夜ぁ物凄ぇMongee丁寧にしたのに 葬式の時ぁ 三途の川の渡り賃の 6文銭を 棺桶に わざと 入れなかったんじゃぁ  三途の川で 6文払えねぇと三途の川を 渡せれんので 獄卒Gokusotuは 難儀をしとった  閻魔Enmaが出て来て 理由 を聞くもんじゃけぇ、嬶の話を したんじゃ  閻魔ぁ「不埒huratiな嬶じゃのう  規則は規則じゃ 嘘付は 地獄に送らにゃぁ おえん  特例じゃ 6文貸そうか」と 言うんじゃ  閻魔に「銭ぅ借りても良ぇが 得意は 法螺吹き位ぇじゃけぇ 三途の川で 金儲もできん  返す当てがねぇ」と 言ってやったらなぁ」「子供に 混じって 三途の川原で 修行しろ」と言って 三途の川を 渡らしてくれなかったんじゃ  わしが石ぃ 積みながら 面白ぇ法螺ぁ 連発するもんじゃけぇ、門番の獄卒供は ニコニコ笑って 仕事に 迫力が のうなったんじゃ  賽の河原で 修行中の餓鬼Gaki供も  ダレ切って シャンとせんのじゃ  亡者供の中にゃぁ わしの話ぅ 聞きとうて 6文を 払わない こしい奴まで 出て来たんじゃ  閻魔ぁ困って「お前を6文無しでも 特別に 地獄に落とそうか  地獄に落ちると 火にくべられたり、切り刻まれたり、腹をひちゃぐられたり、鼻をへずられたり、耳をへしゃげさせられたりするんじゃが それでもえぇか 」と 聞いて来たんじゃ  そりょう聞いて わしが「地獄で死ぬ事はないんじゃろう  わしぁ 苛められて喜ぶ性質Tatiなんで 地獄の攻めで 一度遊びてぇと 思うていた所じゃ  ぜひとも 地獄とやらを 経験したいんで はぁ落としてくれ」と 言ってやったんじゃ。

しかし気になることが有って「女が死ぬと 初めて 身を任せた男に 背負われて 三途の川を渡すそうじゃ  先に 男が 地獄に堕ちたらどうなるんじゃ」と尋ねると、閻魔ぁ「男が 先に 死ねば 地獄から この閻魔が 男をここに呼び出す  女が先に死ねば 男が 来るまで待たせる  お前の嬶は ”あなたが初めてのお人じゃ”と 言うておるが お前は 何も考える必要なんぞないぞ」と 答えて よぞうかしやがったんじゃ  わしが思うに マゾヒストのわしになら ほんまの事ぅ 教えた方が 喜ぶとでも閻魔ぁ 思ったらしんじゃ  閻魔ぁ 散々考えた挙句、ようよう「仕方がない  特別に 配慮し 地獄を 見せてやらぁ」と 言うもんじゃけぇ 手続きの方法を 聞いてやったんじゃ  閻魔も 他の亡者の罪の審議員の王達は 間違いが ねぇかどうか 繰り返 し繰り返し 丁寧に 審議するらしいのじゃ  おまけに 最後にゃぁ 閻魔が 亡者に これからの行く先の地獄を 選ばせるんじゃ  そんな やげろうしい事んぞ やっておれんけぇ「面倒な事ぁ省びiぃて 楽しそうな 地獄に はなから 落としてくれ」と 頼んだんじゃ  閻魔ぁ「お前みたいな 地獄を恐れん奴は 初めてじゃ  お前が 地獄に落ちると 地獄の秩序が 乱される 面倒だから 娑婆に戻そうか  駄目じゃ  閻魔のこけんにかかわる」と 言うんで「せっかくここまで 来たんじゃけぇ地獄ぅ 見物させろ」と言ぅてやったんじゃ  閻魔の奴ぁ わしの気質に惚れたんか、本真に わしが マゾヒストかどうか 確かめたかったんか知らなんが 金団雲Kintonunnに 乗せて 地獄ぅ 案内してくれたんじゃ  金団雲は どえりゃぁ速ぇな   閻魔の王宮は地下7200Kmにあって、王宮の下から86万4000Kmまでが地獄じゃぁ  ほんに 惨い世界じゃが、興味津々 嬉々として 見物していたら 閻魔の奴ぁ 呆れ返っておった  そこで「おい 閻魔 わしが 嘘ばかりついておるのに  何故 舌ぁ 抜かんのじゃ  はよう 抜かれぇ  苦痛を楽しみたい」と 言ってやったんじゃ  閻魔ぁ「もう付き合いきれん  ほんまの 事を 言おう  お前は 数えきれん女を たらした罪深い男じゃから 地獄に落し 舌を抜かにゃぁならないんじゃが、地獄の沙汰は 完璧でなければいけん  お前の言う事が 目茶目茶過ぎて この閻魔をしても 何処までが 嘘か誠か 解らんから 舌を抜く程の量刑かどうか決められん  他にも解らない事がある  おまえの初めての女が 誰か解ら  うっかりしていて 閻魔帳を 鼠が 齧ったからのう  第一 解ったとしても 獄卒を 手なずけ あちこちを はしゃぎ回るような お前を 地獄の中から 探し出すのは 難義じゃ  獄卒共が お前の話を聞きとうて 匿うからのう  お前の初めて の女を 浮世に戻って わしに見せて欲しいのじゃ」 と 言うんで 納得して やったんじゃ  嬶は 思惑通りになって 喜んで 良ぇげ に迎えてくれたがぁ  じゃが「 真実を 知る事ぁ 悲しいような 嬉しいような」と 嘆くふりをするんじゃ  そう言やぁ初めての女ぁ 誰じゃったかのぅ おめぇに 話したんは 覚えとるが 決して教えてくれるな』と 話しました。話好きの男が この面白い話を 流行らそうとしましたが、誰も「馬鹿馬鹿しい」と 言って相手にしなかったそうな。「昭和30年(1955年)三谷野呂の百怪談」「https://kotobank.jp/word/賽の河原-508276」 「https://ja.wikipedia.org/wiki/三途川hirotravel.com/aomorikenn/osorezan/page_thumb10.html

大言こく・おおげんこく:大うそを言う 大口を叩く どぎゃんして:どうやって ひちゃぐられ:引き裂かれる へずる:削る へしゃぐ:圧し潰す よぞうかす:からかう やげろうしい:煩わしい はなから:初めから 神瀬の本宮山:北緯34度54分13秒東経133度50分44秒 双瀬山釣月寺・ならせざんちょうげつじ:愛知県新城市副川字大双瀬22番地 北緯35度1分9秒東経137度33分46秒  平成23年(2011年)10月3日