上田東    貢の大蛇 large Kutinawa "snake" in mitugu


昭和の中頃 三谷の日名の松茸山は 近在でも 有名な 良質の松茸の産地でしたので、毎日のように 秋になると 松茸泥棒が やって来ました。日名の者達は 何と か泥棒を追い払う方法は 無いかと 相談しました。元庄屋の家主は「わしの蔵には守り神の大蛇Oo-Kutinawaが 住んでおる  鼠や 鳥から 米を護ってくれておる  神通力が使える蔵の地神じゃ  口は 利けんが 人の言う事が解るようじゃ  大くちなわに 頼んで、森の番をして貰う事にしよう」と 話を切り出すと、村 人は「じゃぁ じゃ」と 大賛 成の声を 挙げました。そんな事とは知らず、貢村の女が 三谷の山に、未だ村人が 起きて来ない朝早くに 松茸を 盗みに入りました。

辺りは 薄暗く、冷気に気を 締めながら、一歩一歩、松茸坊主で 盛り上げられた 樹齢20年程の赤松の周の落ち葉の膨らみを 探しました。

急峻な山を 登って歩いていると、急に 生暖かい風が 吹き 何者かに 見張られているような気がしました。突然 バッと 山鳥が足元から 飛び発ちました。女には 何が起こったのか解らず、肝を潰し 慌てawateteて山を駆け降り 助けを 無意識に 求めたのでしょうか、人気を察した方向に 走りました。何やら柔らかい筋肉質の物を 踏ん付け転ぶと、眼の前に 大くちなわの口が 有り 不気味に 舌を出し入れしています。女は 腰が抜けて 立てないので、払い除けようと 両手をバタ付かせ 大くちなわの攻撃を防ごうと 足掻いたのです。払う手で 頭を何度も 叩かれて 大くちなわは怒り、カーと息を 吹き掛け脅すと、女は 真面Matomoに大くちなわの吐いた毒気を 一気に吸い込み 目が暗み 意識が薄まり ヒョロどきました。女は 何処をどう通ったか 解らないまま、這う這うの体Houhou-no-teiで 家に逃げ帰りました。家に着くと ふら付きながら、布団に潜り込み 出て来なくなったので 家族の者が 心配して顔を覗くと、顔は 青ざめ 呼吸も乱れ 今にも死にそうで、どうやって 険しい山から 逃げ帰られたのか 解らない程に 衰弱していました。この話は アッと言う間に 近在の話題となりました。この噂は 三谷の者達にも伝わり 大大くちなわの毒気で 女が歩けない程に 衰弱している事が知れました。村人は 思わぬ大くちなわの働きの副作用に 驚き、大くちなわに「充分に効果は有った  ヒョロヒョロになった女が 気の毒じゃ  女を毒気から 解放してやってくれ」と 頼みました。大くちなわは 了解し、嵐の過ぎ去った日の月の無い夜中、そっと女を 助けてやろうと 貢村に 向かいました。人目に触れないようにしたかったので、新月の日を 選んだのです。しかし 運悪く 女の夫が「大雨で 崩れたかもしれない」と 田の畦を  見回りに出て来ていたので 1尊と 一人は 遭遇しました。夫は 大関かと思えるような力士姿で 自信たっぷりに 妻の敵とばかりに 持ち合わせていた鍬を 振りかぶり 襲いかかりました。大くちなわは 相手に 傷つけまいとし ヒラリと 体を躱そうkawasouとしたのですが、思いの外 男の攻撃は力強く かつ早く 想定外の技だったので 対応しきれず、誤って吐息が 力士の眼に 当たりました。吐息には 荒神としての霊力があったので 一瞬 目が暗み、勢い余って田に 転げ倒れました。 持っていた 提燈Tyiutinは 不幸にも 水に浸かり 力士男は 明かりを失いました。慌てて田から 畦に戻ろうとしましたが、辺りは 真っ暗で 大くちなわの僅かに光る眼以外は 何も見えませんでした。貢村の田は 膝迄浸かる程の深さだったので、足を取られて もがけばもがくほど  足の自由を失いました。

「攻撃し続けないと 食われる  大くちなわを 仕留めるしかない」と 思い、残る手段である 光る眼を 目がけて 鍬を無我夢中で 打ち振るいました。大くちなわは 安全な方向に 男を導くのですが、男にその意図は 通じず 意図を阻もうと 誘導に 応じませんでした。次第に疲労し  終に身動きできなくなる程になって 泥に沈み 溺れ死にました。大蛇は 思い掛けない出来事を 悔やみながら、男の屍Sikabaneを 畦に引き上げ「せめて女の病を 治してやらねば」と 女の部屋に 忍び込み、女から毒気を 抜き取ってやりました。翌朝 女が目を覚ますと、すっかり病は 癒えていました。天井から床に掛け 大くちなわの這った跡が  残っていたので、女は 大くちなわが 罪を許しにやって来た事を 覚りました。さて 力士男の話しにもどります。大くちなわの跡は 田から 畦に 続いていました。跡を辿ると、田には 大くちなわの這いずり回ったような跡が 無数の孤(Koをなし 遥か向こう迄 続いていました。畦には 銀の毛を持つ3本尾の大狐が 息絶えていました。女は 押し掛け婿が 悪狐Akkoであったと気付き、化生狐の子を 産まされずに済んだ事に 感謝しました。貢の村人に この話をすると、村人は 村の荒神社と 愛宕神社さえの神に参り祭をしました。すると村は ますます平和になりました。この村の平和は 大くちなわの村人への貢物です。この物語は、「三谷野呂の村人より口伝」「巳地神「貢の村人より口伝」を 基にした物語です。    三谷日名の松茸山:三谷中倉野呂の裏山(塚ヶ塔山・塚が乢山)は 子供達が豊岡小学校の通学中 踏み潰し崩れる感触を 楽しんで遊ぶ程に 良質のマツタケが 良く生えました  朝5時頃 空が白む頃 採りに行くのですが、その頃には 松茸泥棒が 一仕事終えた後でした.。 それでも 山深い百姓にとって 貴重な現金収入が 十分に得られました。  しかし 盗られるのは 悔しく 野呂の少年は 泥坊の正体を知りたく 暗い山に入り待ち受けしていると 20才代の女がやって来て 手探りで 松茸を探し始めました マツタケは 毎年  同じような所に生えるので その場所を知っていれば 月明り位の光を頼りに 採取できるのです。少年は 後ろにそっと近寄り脅そうとすると、山犬が不気味な声で 鳴きました  この頃 狂犬病は 未だ間然に撲滅されていず、山犬 等に  咬まれないよう役所から注意されていたので、女は その声に怯え 辺りを 見回しました  人の気配 を感じたらしく 身を屈めた所で  少年がワット声を  掛けると、女は 魂消て 逃げ出しました  少年は女の足を足で払うと 顔から倒れ、もうなにも見ず 無我夢中になって山を 転げるように 木にぶつかりながら 下って行きました  少年は 面白がって追いかけると 貢に向けて走り去りました  貢の女が2週間ほど 寝込んだと言う噂が 届いたそうです 「三谷野呂の村人より口伝」 貢のマツタケ採り:昭和の中頃 貢の女性が 山にマツタケ採りに 出かけました  この日は日頃に 増して沢山のマツタケが 採れたので 山に深く深く入って行きました 喜んで帰ろうとすると 道を失った事に 気付き ともかく 下に下にと 下っていると 大クチナワを 踏んでしまいました  クチナワはハーと息を吹きかけたので 逃げ出しました。 どこをどう通ったのか 解りませんが 何とか うちに辿り着くと 顔は青ざめ 恐怖 で気を違えたようで 2週間程 寝こみました「貢の村人より口伝」 貢の水の事故:昭和の中頃 ある台風の日に 大雨が降りました。 ある男が 田の畦の決壊を恐れ 水の流れを 提燈の光を頼りに 見に行きました  足を ぬかるみに 捕られ 転ぶと提灯の火が消えて 倒れ 泥に顔が 漬かりました  急に視野を失った男が 慌てて畦に戻ろうとしましたが、反対に進んでしまいました  立ち上ろうとしても なぜか立ち上れず 視野を 泥で失ったまま 田の中を這いずり回り ついに 溺れ死にました。 村人が 駆けつけると 田には 大クチナワが 這いずり回った様な 跡が残っていました。  その男が 這いずり回った後です。「貢の村人より口伝」 貢荒神:上田東貢 北緯34度54分7秒東経133度47分55秒    貢愛宕神社:上田東貢 北五34度54分6秒東経133度47分49秒        平成25年(2013年)6月17日

 

2017年3月31日に【岡山「へその町」の民話-岡山県吉備中央町の採訪記録 立石憲利 吉備中央町図書館 吉備人出版】が、2019年3月31日に【岡山「へその町」の民話追補版-岡山県吉備中央町の採訪記録 立石憲利 吉備中央町図書館 日宝綜合製本株式会社】が発行されました。前者のP250~P264に 蛇に関する民話が 載せられています。後者のp50「峠谷の狐」がP52~P54に 大蛇にまつわる話が 多く載っています。p57の「古庵坊主」の中で 長畝の七谷の大蛇が 紹介されています。