広面 幽霊の正体 Ghost's true character


広面の牛舎から 坂道を登ると 雑木林の奥に道の両脇に竹薮があり、竹薮の手前に幽霊のような物がユラユラ揺れていたそうです。月夜の晩 傷痍軍人Syoui-gunjinらしい人が 白い着物を着て 数人をたむろしていました。雑木林を左に下りると 窪み(があり 窪みに狐に騙され人が 転げ込んでいました。竹薮を抜けると、狐に騙された男が ボケッと石に座って野葡萄Nobudouを食べていました。怖くなって お経を唱えながら藪を振り返ると、藪影に月のような光が揺れていました。朝になって行って見れば、軍人さんは枯れ木で、転んでいた人は丸太でした。「吉備中央町の民話(1)」

 


幽霊の正体見れば枯れ尾花 If you look carefully, it is more ordinary than it appears the ghost,when examined closely,was withered silver grass

 

昔 ドンド口Dondo-gutiの臆病な男が 鼓田の親戚に 夜中に 使いに出されました。行きなれた道ですが 夜ともなれば 月の明かりしか 頼りにするものはありません。大きな農家の牛小屋の 脇を 通ると 何時もなら 嬉しそうに 牛達が 挨拶をしてくれるのですが 巨体の動物は 身動きもせず 無言でした。世の中が 死の世界になったと思え 恐ろしくなりました。道の先に 月の光を 遮る竹藪が 待ち受けています。

暗黒の手前には 白い物が 幽霊のように ユラユラ揺れています。幽霊のような者を 良く見ると  傷痍軍人賀で 破れた軍服を 着た男達でした。腕が無い人や 足が無い人が サーベルを 抜いて 争っています。何で こんな所に 傷痍軍人が 集まって 諍いIsakaiを 起こしているのか解りません。「確か この上に 狸岩がある。狸に 騙されているのだろうか。 鼓岩の狐に 騙されているのだろうか。」と 思い「触らぬ神にたたりなし。」と 道から離れ 通り抜けようとしました。雑木林の山肌を 左に登り ソロリソロリと 足音を消して進むと 大きな窪みがあり人が倒れていました。モッコク谷のナメソウのように ウネウネとしながら「お狐様 ネズテン(鼠の天ぷら)をお召上がりください」と言って 木の葉を 頭の上に捧げています。

何とか 竹藪を抜け 野呂街道に 戻ると、石に腰掛けた男が 石だか 切り株に 腰掛け 恍惚として 遠くを眺め、野葡萄をジャリジャリと 種ごと食べています。その男の手元を よく見ると 狐の最後っ屁の匂いのする 小石の塊を 持っています。その横には 二人の尖った耳の男女が 人目を 忍ぶように 身を低くして 声を潜め 抱き合っています。「狐がいる。騙されるものか。」と 眉に 唾を塗り お経を唱え 恐々と 竹藪を振り返ると 月の様な明かりが 提燈のように 竹の枝に 引っ掛っていました。「宙狐かも」と もう恐ろしく 無我夢中で 鼓田の親戚の猟師の家に 逃げ込みました。その話をすると 猟師は「馬鹿馬鹿し気な話だ。正体を 見に行ってやる。」と 言って、翌朝 家に送ってくれました。石に 腰掛けていた男は 小枝の付いた切り株で 窪みは 大木が 根ごと倒れた後の穴で ナメソウは 倒木で ネズテンは 木の葉でした。薮に来ると 折れた大木や 数本の枯れ木が 風に揺れていました。猟師は 臆病男を 笑い飛ばしました。臆病男が「竹に掛かった提灯は なんじゃろう。」と 話題を 変えると、何度見ても 昼間は何も見えません。次の夜に行ってみると ユラリユラリと あざ笑うように 輝くのです。猟師 は優秀な猟犬を飼っていたので 連れてくると、猟犬は 尻尾Sippoを 股に挟んで 身を強張らせ 尻込みするのです。すると 猟師は 途端に青ざめ 震えだし「宙狐火じゃ」と 呻くように呟いて 腰を抜かし 2週間 も寝込みました。「吉備中央町の民話(1)」を基にした物語     ドンド:広面広奥1277・1278番地 ドンド口Dondo-guti広奥1467・1468・1471・1472番地 狸岩:北緯34度49分27秒東経133度48分44秒 昔 叩くとポンポンと 狸の腹鼓のような音がしたそうです。     鼓岩:北緯34度49分9秒東経133度48分48秒    牛舎:現  牛を飼う人は 広奥に居りません。    ナメソウ:モッコク谷に 住むと言われる 蛇型の妖怪    ネズテン:鼠の天婦羅 豊川稲荷の狐の好物とされます。   モッコク谷:広奥 北緯34度49分20秒東経133度48分54秒の北    平成24年(2012年)5月4日 

 

伏見に行ったお爺さん The old man who went to Hushimi

昔 門太夫屋敷があって その南側に 通用門があり 東側に 身分の高い人の訪問や 結婚式や 葬式 等特別の時にしか 開けない御門が ありました。その屋敷に 代々使える年齢も 出処も解らない下働きのお爺さんが 居り、時々山に 薬草を採りに行く位しか 外出しませんでした。しかし 広い知識や 技術を持ち備えていて 病気に成ったり 諍い事等が起こった時には 爺さんに頼むと 快く聞いてくれ 何事も 難なく助けてくれました。だから家中の者達は 気兼ねなくお爺さんを 頼り 大切にしておりました。ところが ある真夜中に 伏見の方向の山 に 宙孤が沢山現れ、何かの合図をするように 点いたり消えたリしました。それからは お爺さんは ソワソワと 何やら衣装や 身なりを整え始めました。7日目に 今までよりも 宙孤が 沢山で出た日に 爺さんは「門太夫様。この度 よんどころ無い事が ありました。お暇をくださりませ。」と 申し出たのです。門太夫も 家の者も「お爺さんが 居ないと困る。いつまでも ここにいてくれ。」と  拝み倒しましたが お爺さんの意志は固く 申し出を改めませんでした。根負けした門太夫が 暇を取る事を許すと、お爺さんは「出立には 東の御門を 使わせてくださりませ。」と 願い出たのです。長年の非の打ち所の無い奉公に免じ 門太夫は それを 許しました。次の日 東の御門が 開かれると 門前には それは きらびやかなお加護が 用意され 立派な神職姿や 侍姿の者達が 跪坐して 待ち構えていました。あまりの光景に 皆が呆けにとられていると、お爺さんが いつ どうやって 用意したのか解らないような高貴な衣装で 身を包み 堂々とした 若者のように 籠に乗り込みました。「お立ちぃ」と 声がかかると 爺さんは 手を振り「お世話になりました。束の間でしたが 幸せでした.でも帰れば もっと幸せになれそうです。」と 言いながら 名残惜しそうに 去って行きました。門太夫は「しまった。お爺さんじゃない。薬草取りは 逢引きだったのか。あの方は 伏見稲荷の狐の若様だ。祝言を 上げに伏見に お戻りなさったのだ。数々の無礼を お許しください。」と ひれ伏しました。それからは 屋敷に 異変がある時には 伏見に向かってお願いすると 必ず 宙孤が 現れ苦難を 救ってくれたそうな。nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=270」    平成24年(2012年)5月4日