円城 虎に化けた狐 Fox turned into a tiger


遠い昔の話です。お寺の和尚が 村の子供達を 集め 何かを 教えていました。「雀蜂Suzume-batiは 強い毒を 持っているので お前さん等も 怖いと 思っているんじゃろう。それもあるが、蜂は 虎模様Tora-moyouをしておる.虎は どんな動物より強いので、どんな動物でも 怖がる。人間まで 恐れて 虎には近寄らん。虎の模様をしているだけで  蜂は 他の動物に 怖がられるんじゃ。それで 鳥や 蛙に 襲われないし 猟師のお前のお父も 怖くて逃げる。これが虎模様のご利益じゃ」と 屏風(byoubuを 指差しました。

狐が それを聞いていて「猟師に 殺された仲間の仇Ksatakiを 取りたくて仕方なかったので 虎に化けて 猟師を 脅して 山に入

れなくしてやろう」と 考えました。所が  狐は 虎を見た事がなく、和尚の指差した屏風は 残念にも 物陰にあって  虎の絵の虎模様の一部が 解っただけで、他の部分は 良く見えなかったのです。子供達が帰る途中に 狐は和尚に化け呼び止め「復習は大切じゃ。虎は どんな獣じゃったかのう。」と 偉そうに 尋ねました。和尚を 尊敬していた子供達は 虎について 和尚を 満足させようと 真面目に 復習してくれました。狐は 一つも聞き流さないよう 聞き耳を 立てました。子供達は「見た目は 猫にそっくりじゃ。」「猫より 胴が長く 熊より大きい。」「前足が 大きく 牛より太い。」「胸の辺りが 大きいが 腰は 華奢Kyasyaじゃ。」「背中は たわんどって 腰は 盛り上がっていて 肩も 盛り上がっておった。」「頭は 胸と同じ位じゃと 覚えておる」と 言うと、狐の和尚が「顔は どんなじゃったろうか。」と 尋ねました。子供達は「丸っこい顔で 目はギラギラじゃ。」「鼻は 大きめで 耳は丸く小まい。」「牙は 狼より 強そうで 口は 頬まで 裂けとったよのう。」「尻尾Sippoは 猪inosisiより 長くて 太く しなやかそうじゃ。」等と 答えてくれました。そこで 虎の姿を想像して、聞いた通りの虎の姿に 狐は 化けました。子供達の前に立ち塞がって見ると子供達は奇怪な見た事もない動物を見て 驚いて逃げました。これに 狐は 自信を持って 次々村人を 驚かし、逃げる人間を 見て楽しく「これなら間違いなく 猟師共も 恐れる。」と 有頂天に なったのです。村人は 危機を感じ、化け物を 退治しようと考え 猟師に 頼みました。虎に似た毛皮だと 言うのを 聞いて  猟師は 張り切って引き受けました。

虎は日本にいないので 虎の皮は 高く取引されていたからで「虎に似た動物で、見た事もない動物なら その皮は もっと高く売れる。1頭 捕れば 一生 楽に暮らせる程の値段が付く」と 思われたからです。危険を押して 森に出かけると、物凄く奇怪な形の 虎模様の動物が 現れました。普通の人なら 腰を抜かさんばかりに 驚いて 逃げたでしょう。しかし なぜか 猟犬は 勇敢にも 奇怪な虎に 吠え掛かるのです。犬は 臭いで 狐だと 解ったからです。犬の襲撃を 予想しなかった奇怪な虎は  ヘッピリ腰になり 猟犬を 恐れました。尻込みしたのを見て 猟師は喜んで 急所を 撃つと、奇怪な虎は あっさり死んで 狐の姿に 戻ったのです。猟師は  腹が立って狐を犬の餌にしました。「三谷野呂の百怪談」 「群盲象を撫でる」と 言う諺があります。大勢の人が それぞれ部分部分を 正しく表現したとして、各部分を つなぎ合わせて 全体像を 再現したとしても、真実の姿は 復元できない事が しばしばあり、多くはむしろ 奇怪な姿に 成ります。専門家が語る 断片的な事を寄せ集めでできた 理論が 正しいとは 限りません。一つでも 誤りがあれば 全体像に 大きな影響を及ぼ し 間違った結論となるからです 。

平成23年(2011年)9月3日

 

旅人と虎と狐 Traveler, Tiger and Fox

 ある夏の日に 旅人が  暑さに茹だりながら 街道を歩いていると、檻に入れられた虎が「あのぉ 旅人さん わしを出してくれまいか」と 声を掛け頼んできました。旅人が「やじゃ 。 檻から出したら  一番に わしが 喰われようものぅ。」と 答えると 虎は「そぎゃぁな惨ぇ事ぁせんけぇ 頼まぁ」と 切なそうに 言いました。正直で 心の優しい旅人は  虎の哀れっぽい声に 心を動かされ 檻から 出してやりました。すると虎は「人間は 悪い奴ばぁじゃ。誰に 聞いてもそう言う。」と 言って にも 襲おうとしました。旅人は このままでは 食われると思って「わしは そねぇな悪もんじゃぁねえ。これから 出合う三人のもんが  三人とも わしを 喰って良ぇと言うのなら 潔く 食われてやらぁ」と 自信ありげに 条件を付けました。虎も「わしも男じゃ。二言は無ぇ。助けてもらった恩もある。お前が 世間に迷 惑をかけているなら 食わしてくれぇ。」と 言うと、牛に 出合いました。虎が「牛さん。こ奴らは 悪ぃ奴か。」 と 尋ねると、牛は「とんでもない悪さじゃ。うち等の乳を 搾り取った上に 肉まで 食うし 皮まで剥ぐ。人間なんぞぅ 早う食うてくれぇ。」と 答えました。虎が 涎を垂らすと 旅人は 思いもよらぬ成り行きに 慌てて「待ちねぇ。まだ二人居る。暑ぃ暑ぃ。」と 冷や汗を かきながら 大木の木陰に 涼を取ろうと 座りました。すると虎が 大木に「こいつ等ぁ 悪い奴か。」 と 尋ねると、大木は「そりゃぁぼっけぇ悪いぞ。わしの木陰で 涼んでいるくせに。明日りぃにゃぁ わしを切って 銭にする事に なっておる。人間なんぞ 遠慮せず 食うてくれ。」と 答えました。虎が 涎を啜っていると 曲がり角から 狐が出て来て 虎を見て逃げようとしましたが、虎が 素早く行く手を 阻んで「こいつ等ぁ 悪い奴か。」と 尋ねました。狐は 暫く思案して「何の事じゃ。初めから 事の仔細を 見せてくれにゃぁ 何のことか 解らん。事の初めの所ぇつれていって つかぁせ。」と 虎に 気付かれないよう 旅人に 目配せをして 答えました。速く食いたいと 焦っていた虎は 早く質問の答えを 少しでも早く 聞きたくて 何も考えずに 檻の所に狐を 案内して行きました。狐が「初めは 虎さんは 檻の中にいたんか。なら入っておくれぇ。」と 言うと、旅人が 扉を開け 虎は 檻に 入らせました。虎が入ると 旅人は バタンと 扉を閉め 鍵を掛けました。虎と 狐は「これでわし等ぁ 虎に 食われまい 。 これでいいのだ。これでいいのだ。」と 歌いながら ウキウキとして 道を 戻って行きましたとさ。旅人と虎と狐 - 山形県の昔話 | 民話の部屋 (minwanoheya.jp)」    平成23年(2011年)9月3日